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頭の中を埋めるもの(神戸×祇園)※R15



※方言男子で神戸×祇園です
※ぬるいえろあり












 夜も深まった午前一時過ぎ。神戸はどうもうまく寝付けずに何度目かもわからない寝返りを打っていた。静かな部屋で耳を澄ますと、同室の三人の寝息だけが聞こえた。眠れないのは自分だけか、と神戸は一つ大きなため息をついた。神戸の脳裏には、昼間の光景が焼き付いて離れなかった。何とかして別のことを考えようと、また寝返りを打つが、状況は変わらなかった。



 昼間、神戸は祇園と一緒にテスト勉強をしていた。越後と山形は部屋では誘惑が多すぎて落ち着いて勉強ができないからと言って、二人で出かけていった。昼ごはんはいらないと言っていたから、恐らくファミレスにでも行ったのだろう。
 いつもの部屋で、二人きりだ。神戸と祇園は幼馴染みのため、二人きりで勉強などという状況には慣れていたはずだった。しかし、それはこのにゃっぽん学園に入学するまでの話だ。この寮生活が始まってから二人の関係は徐々に変わっていった。そして恋人という関係になったのはつい最近の話で、恋人同士になってから、こんな風に二人きりになったのは初めてだった。

 しんとした部屋には、ペンが紙を滑る音が響く。神戸はやけに居心地が悪くて、思わず祇園に話しかけた。


『なんや、いきなり二人きりになったら緊張するなぁ…』
『何を今さら。ここに来るまでは、こんなんしょっちゅうやったやんか』
『そうやけど』
『なんや、僕のことそんなに意識してるん?』


 祇園はそう言って笑った。整った顔立ち。意地悪そうに上がる口角。自分のリアクションを心底面白がるような笑い方は変わってないな、と神戸は思う。


『祇園ちゃんは意識してくれへんの?』
『は?別に、今までと何も変わらへんよ』
『なんで…俺は、祇園ちゃんと一緒に居ると、その…ドキドキするんやけど』


 神戸は握っていたペンを離して、じっと祇園を見た。その視線に気づいたのか祇園もノートに向けていた視線を神戸へと向けた。気まずいような甘いような何とも言い難い空気が流れる。


『なんやねん、人の顔じっと見て…』
『なぁ、祇園ちゃん…』


 人一人分ほど空いていた距離を縮める。祇園が思わず身を引こうをしたのを、少し強引に引き寄せた。自然と祇園が神戸の腕に収まる形になっていた。祇園の長くて艶のある黒髪が、神戸の頬をくすぐる。


『祇園…』
『な、に…』
『誰も居らんし…あかん?』
『あかん、って…』
『したいんやけど、あかん?祇園ちゃん』
『っ!』


 そっと祇園の頬を撫で、甘えるように言った。祇園は驚いたように目を見開き、固まってしまっていた。その間に、神戸は祇園との距離をつめる。お互いの唇が重なるまであと数センチ。しかし、祇園の制止により、二人の唇が重なることはなかった。


『あ、あほか!ここどこやと思ってんねん!』
『二人ともまだ帰ってこんって』
『そういう問題やない…!とにかく、せえへんから!』


 そう言って、祇園は神戸の体を押し返し、教科書へと視線を戻した。

 微妙な時間が部屋に流れる。それに耐えかねたのか、祇園がぽつりと声を漏らした。


『き、キスだけやったら、ええけど』
『え!?』
『ほら、こっち向きぃ』


 少し苛立ったように祇園は神戸の腕を掴み、乱暴にキスをした。目を閉じることも忘れていたため、神戸は顔を真っ赤にしながら自分にキスをする祇園の顔が目に焼きついて離れなかった。そして、神戸はその熱を引きずったまま、時間は流れていった。何も知らずに帰ってきた越後と山形は、神戸のどこかぎこちない言動に違和感を覚えつつも特に気にする様子もなく、そのまま時間は過ぎ、とうとう夜を迎えてしまった。そして現在に至るのだ。





 (あかん、寝られへん)


 無理矢理寝ようとしてみたものの、目を閉じれば祇園のことばかり考えてしまう。あの恥ずかしそうな表情。いつも強気で、素直じゃなくて、口を開けば文句ばかり言うけど、実は繊細で。そんな祇園が勇気を出して自分からキスをしてくれたのだ。神戸が嬉しく思わないわけがない。そして、欲情しないはずがないのだ。


 (触りたい。髪を撫でて、唇にキスをして、細い手首を押し付けて、その真っ白い首筋に噛み付きたい。何も考えられないくらいきもちよくさせたい)


 神戸の脳内はあらぬ妄想でいっぱいだった。持て余した熱を解放するのは簡単だ。しかしそれだけで治まるかといわれたら、恐らく治まらないだろう。神戸と祇園との距離は、手を伸ばせば容易に触れてしまえるほどに近い。この状況はあまりに酷だった。時々漏れる吐息にいちいち心臓が跳ねてしまう。


 (もし、今この状況で、祇園ちゃんのこと襲ったらどうなるんやろう)


 神戸の脳内には、自分に犯されて必死に声を堪えている祇園の姿が浮かんだ。越後と山形にばれないように、恥ずかしそうに口を手で隠しながら、神戸を睨む。しかしその視線にはいつもの冷たさはなく、熱に浮かされ加虐心をそそる。


『ん、ふ…ぅあ…っんん…』
『祇園ちゃん…』
『神戸…っ!もう、いやや…ぁ、あ…っ!』
『声、聞こえてまうで?我慢しぃ』
『ぁ…っいや…ぁあ…んんっ、ん…!』


 悶々と思いを巡らせていると、祇園が寝返りを打ち、手が触れ合った。神戸は思わず小さな悲鳴を上げる。その声で目が覚めてしまったのだろう。祇園はむくりと起き上がり、遠慮がちなあくびをした。


「ん…あれ、神戸…?まだ起きてたん?」
「ぎ、祇園ちゃん…!」
「そないに驚かんでもええやろ。寝られへんの?」
「ああ…おん。ちょっとな」
「あんたが寝られへんなんて珍しいなぁ。なんか悩み事でもあるん?」
「別に、そういうんやない、けど」
「なんやはっきりせんなぁ」


 祇園は怪訝そうに首をかしげ、神戸を見ていた。神戸は今までの妄想の手前、まともに目を合わせることができなかった。その態度が余計に祇園に疑問を抱かせた。祇園はどこかで神戸に対して今まで何も悩んだことがなさそうな男だと思っていたらしい。
 少し心配になった祇園は、おもむろに神戸に近づき、そしてぎゅっと抱きしめた。


「な、なななに…っ!?」
「静かにしぃ。越後と山形起きてまうやろ」
「で、でも…!!祇園ちゃん!!」
「そんな風に悩んでるの、見たことなかったから…僕にできることなら、なんでも相談に」
「やめろ…っ離せって!」
「…っ、え?」


 祇園の戸惑った声で、思いのほか強い口調で咎めてしまったことに気づいた神戸は、うなだれながらごめんと呟いた。力ずくで離してしまった体だったが、神戸にはその体温や感触が、残ったままだった。このまま沈黙が流れ続けたら、と神戸は考える。喧嘩になってしまうだろうか。祇園は優しいから、このまま何事もなかったように眠ってしまうのだろうか。それとも理性がきかずさっきの妄想のように祇園を無理矢理犯してしまうのだろうか。いずれにせよ、何かアクションを起こさないと、どうなってしまうかわからない。そう考えた神戸は、恥を忍んで全てを打ち明けることにした。


「なぁ、祇園ちゃん。笑わんと聞いてな?」
「…」
「実は、ずっと祇園ちゃんのこと考えてた」
「っ、は?」
「昼間、祇園ちゃんからちゅうしてもらって、それからずっと。あの感触も、表情も、頭から離れへんかった」
「…あほ、ちゃう…恥ずかしいやつやな…!」


 祇園が驚きと羞恥で軽くパニックになっていたが、神戸はさらに続けた。


「祇園ちゃんに触りたくて、一つになりたいと思って…そんなことばっかり考えてたら、どんどん収まりつかんくなってしもて」
「もうええ、わかったから…」
「眠ってる祇園ちゃんのこと襲ったらどうなるんやろって、考えてた」
「…っ!」


 祇園は思わず体を強張らせてしまう。祇園を見つめる神戸の目はいつもの優しげな目ではなく、祇園には今にも獲物を食らおうとしている獣のように映った。


「神戸…」
「…やから、そんな風に俺に簡単に触ったらあかんの。ずっと我慢しとるんやから」


 祇園が怯えているのが伝わったのだろう。神戸は安心させるようにそう言って無理に笑って見せた。


「…な、なんや、あほらしい…僕のことでそんなに悩んでたん?」
「あ、あほらしいってなんやねん!」
「神戸…」
「…なに」
「ごめんな」


 祇園はそっと神戸の手に触れ、申し訳なさそうに言った。触られたら襲ってしまうと言った矢先の行為に、神戸は怯んでしまう。


「え、祇園ちゃん…?」
「その、この部屋で、とか、越後と山形がいるところで、とか、その…そういうんはいややけど…」
「…うん」
「二人きりになれる場所で、やったら、ええから」
「っ!」
「覚悟は、ちゃんとできてる、から…」


 顔を見られるのが恥ずかしかったのか祇園は重なった手をずっと見ながら言った。途切れ途切れの言葉が神戸の胸にすとんと落ちて、熱を持ち始める。


「祇園ちゃん…!!」
「ちょ、神戸!」
「そんなかわいいこと言うて!そんなに襲われたいんか!!」
「やめぇや、離せあほ!!」


 神戸は祇園の細い腰にぎゅうっと抱きついた。その勢いで祇園は神戸に押し倒される形で布団に倒れこんだ。神戸の理性はぎりぎりのところで保たれていたが、祇園の言葉でその理性の糸はあっけなく切れてしまったらしい。
 神戸が祇園にキスをしようとした時だった。隣でごそごそと物音が聞こえた。


「…っ!」
「んん…?祇園先輩…?神戸先輩も…」
「や、山形…!?」

 その物音の正体は、山形が目を覚ます音だった。話がヒートアップしすぎて声を潜めることを忘れていたため、山形が起きてしまったらしい。 幸いまだ完全に覚醒しきっていないらしく、山形はしばらくぼぉっとしていた。


「や、山形!何もないで〜せやからはよ寝ような〜?」
「せやで、明日も早いことやし…」


 二人が優しい口調であやすように語り掛けると、山形はまた布団にもぐりこんで安らかな寝息を立てた。その姿に安心した二人は、同時に大きなため息をついた。


「…寝よか」
「そうやね…」


 緊張しながら話したからか、神戸も祇園も疲れてしまっていた。神戸は思わず大きなあくびをする。それにつられて、祇園もひとつあくびをした。それがなんだかおかしくて、二人は顔を見合わせて笑う。


「今度はちゃんと寝ぇや。子どもやないんやから」
「うるさいわ!」


 軽口を叩く、この関係が一番自分たちらしい、と神戸は思う。でも、もう少し前に進めたら、とも思う。この微妙な距離をもどかしくも愛しく思いつつ、神戸は夢の中へと落ちていった。








end.










越後ちゃんが起きなかったのはそんなに勉強が得意ではないのにもかかわらず見栄を張って山形に教えていて気疲れしたからです。そうに違いない。










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