sub 出せない手紙(神戸×祇園) ※方言男子 ※6年後設定(過去捏造あり) 拝啓 毎日寒い日が続きますが、風邪など引いていませんか。俺は何とか元気でやってるよ。 お前は京都で頑張っとる?中学の時からお前は大人びとったけど、今はどうなってるんやろ。 そう言えば、お前いっつも俺のことガキやなんや言うてたやろ?今の俺見たらびっくりするで。多分、俺って気づかんのちゃうかな。 まぁ、それは置いといて。文章やら書くんが苦手な俺が、わざわざ手紙書いた理由、お前やったらもうわかってるんちゃうかな。 あんな、祇園ちゃん。俺、やっぱり─── そこまで書いて、手が止まった。メールをしようとしたときも、同じところで手が止まったのを思い出した。きっと電話をしたって同じところで言葉に詰まるだろう。 俺が東京に就職して、もう2年になる。祇園ちゃんは大学卒業と同時に京都に帰ってしまった。祇園ちゃんの話によると、実家の家業を継ぐのは、高校に入る前から決まっていたらしい。だから彼の両親は、高校、大学は自由にさせてくれたんだと彼は言った。 別に祇園ちゃんは嫌がってはいなかったが、俺が東京に就職することが決まったとき、少し寂しそうな目をしていた。 俺たちは、高校時代からなあなあの関係が続いていた。何となく側にいて、何となく笑いあって、何となくキスをして、何となく、セックスをした。 馴れ合いの関係。好きだとか、そういう言葉は一切なかった。生ぬるくて、居心地がよかった。俺たちはそれで満足していた。 でも、離れてやっと気がついた。俺は、祇園ちゃんが好きだった。彼の柔らかい言葉が、彼の可愛い笑顔が、彼の悩ましく漏れる吐息が、好きだったんだ。 今更気づいたって遅い。きっと、祇園ちゃんには恋人だっているだろう。俺なんかよりずっと素敵な、素直じゃない祇園ちゃんを笑って受け入れてくれるような、そんな人と恋をしているんだろう。今更俺なんかが昔の想いを引き摺っても仕方ない。祇園ちゃんには迷惑なだけだ。 東京での生活にはもう慣れた。目まぐるしく動き続ける、ロボットみたいな街。たくさんの人の夢や希望や絶望が入り組んだ街、東京。 無機質に、残酷に回り続ける、キラキラと輝くこの場所で、俺は何とかうまくやっている。 でも、時々耳に入る西の訛りが、どうしようもなく懐かしいのだ。彼との日々を思い出してしまう。 ため息をひとつ。憂鬱が部屋に溶け出した。あの頃の記憶。一日の終わりに思い出しては苦しくなっている。 俺はこの先も手紙の続きを書けないまま生きていくんだろう。書けない言葉が水滴となって目から零れ落ちた。俺はこの想いを引き摺りながら、東京という街に飲まれていく。たまに、西の空に想いを馳せながら。 (追伸 貴方をずっと好きでいます。) end. 再会するまでは、想うだけ。 ★ [*前へ][次へ#] [戻る] |