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キスの練習をさせてあげる(神戸×祇園)
 

※方言男子で神戸×祇園






「なぁ、キスの練習、させてくれん?」


神戸はそう言って僕の頬に触れた。何をふざけたことを言うてるんや、と突き放してやれば良かったのかもしれない。でも、僕の中に燻ってる感情が邪魔をした。
長年胸の内に秘めた、感情が。


「なんでそんなこと頼むん?」
「…す、好きな人が、出来たから」


動揺したように、けれど嬉しそうにそう言った神戸に、チクリと胸が痛んだ。

話によると、その人は経験豊富そうなお姉さん、だそうだ。だから、キスの一つも出来ない男なんて望み薄も良いところだと、こんなバカな話を僕に持ちかけてきたらしい。


「…アホちゃう」
「あ、アホって言うな!」
「大体、なんで僕がこんなこと…」
「お前しか、居らんからに決まっとるやろ…」


遠慮がちに僕を見る目は、まるで捨てられた子犬のようで。不覚にも胸がときめいた。

騙されるな。これは錯覚だ。

「お前しか居らん」なんて、絶対に僕が期待している意味ではない。「キスの相手をしてくれて、尚且つキスをしたあとに嫌いだと言わんような都合の良い相手は、お前しかおらん」といったところだろう。

頭ではわかっている。軽蔑さえ、している。それにも関わらず、心はそれを認めようとはしなかった。


「…しゃあないなぁ」
「え…」
「そこまで情けない顔で頼まれてるのに、断るなんて可哀想すぎるわ」
「祇園…」
「勘違いせんといて。別にアンタのためとちゃう。僕が罪悪感に苛まれるんが嫌やから、仕方なくや」


精一杯の強がりだった。本当は、偽りでも良いから、神戸とキスしてみたかっただけ。一瞬でも良いから、神戸と恋人みたいな時間を過ごしてみたかっただけ。


「ありがと、祇園」


神戸は何故か少しだけ苦しそうに笑った。そして、とん、と僕の肩に手を置いた。
神戸の手は温かい。僕はこの体温が大好きだ。もう、随分昔から、ずっと。

徐々に近づく距離。神戸の匂い。重なるシルエット。
そして、そっと触れた、唇。
最初こそ触れるだけの可愛いものだったが、次第にぬるりと舌を絡められた。


「ふぁ…っん」
「ん、祇園…」
「ぁ、っんん…」


掠れた声で名前を呼ばれると、素直な僕の心臓は鼓動を速くした。
頭がぼぉっとする。何も、考えられなくなってしまう

神戸って、こんなキスするんや。
こんなにも愛のこもった、甘い甘い、お菓子のようなキスを。こんなキスを独り占めできる女の子は、きっと幸せだ。

ああ、胸が苦しい。いっそ、キスで殺してはくれないだろうか。

そう願っても、神戸のキスは残酷なまでに甘く、優しい。
僕を面白いくらいに翻弄する。もう、これ以上は駄目だ。


「…っは…!いい加減にしぃや!長いねん、あほ!」
「っ、ごめん…」
「もう…謝んなや…」


僕を見つめる目はやっぱりどこか情けなくて、堪らず笑ってしまう。
結局、僕はこいつに甘い。こんなに苦しいのに、こいつが傷ついてないか心配してるのだから。我ながら呆れる。


「練習になった?」
「おう…」
「なんや、不満そうやな」
「そんなんちゃう…ちょっと照れただけや」
「は?」
「祇園ちゃん…」


急に真剣な表情を向けられて、戸惑う。

勘違いするな、勘違いするな。これに深い意味なんてない。期待なんかするな。鼓動も、どうかおさまって。


「な、に…」
「…っ、」
「神戸?」
「あ…、ありがとうな、祇園」


…ほら、やっぱり。
陳腐な感謝の言葉なんて、今は聞きたくなかった。あくまで今までの関係を保とうとする言葉なんて、聞きたくなかった。でも、神戸がそれを望むなら、それでいい。僕たちは明日からも幼馴染みのままでいよう。


「これだけサービスしてあげたんやから、何か奢ってや」
「浪速みたいなこと言うなや」
「うるさいわ。僕は高くつくで?」


軽口を叩いて笑ってしまえば、ほら元通り。
せいぜい女の子とキスするときに、僕のことを思い出してしまえば良い。そして、すぐにフラれてしまえば、良い。

なんて、絶対口には出さんけど。


「まぁ、頑張りぃや、神戸」


あくまで僕は君の幼馴染み。
どんな形であれ、君の側に居られるなら、それで良い。

大丈夫。いつか胸の痛みすら、忘れられる。









end.









この二人はだぁれ?
そして幼馴染み書くといつも似たり寄ったりな話になる。












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あきゅろす。
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