sub 無闇に戯れること勿れ(小政) ※BSRで小政です 戦に勝つと気持ちが昂ることくらい、俺にだって分かる。死と隣り合わせだからこそ、その感情はひとしおであることくらい、知っている。 しかし、そうは言ったものの、今日の政宗様は度が過ぎる。 「Hey!小十郎!今日もcoolだったぜ?褒美に俺からkissしてやる!」 「お、お止めください」 「Ah?俺からのkissが受け取れねぇとでも言うつもりか?」 「いえ、そういうわけでは…」 胸ぐらを掴んでじっと俺を見る。にぃ、と上げられた口角。得意気な表情。当てられないはずがない。本当ならば、今すぐにでもその唇を奪って、艶っぽい吐息を吐かせて差し上げたいほどた。 しかし、如何せんここは戦場だ。周りには敵こそいないが、他の家臣はその辺にいる。いくら物陰だとは言え、すぐに見つかってしまうだろう。 「場所をお弁えください。こんなところを他の奴らに見つかったら…」 「見つかったら見せつけてやりゃ良いじゃねぇか。俺から悪い虫を追い払うチャンスだぜ?」 「そんなことをしては、伊達軍の士気に関わります!」 伊達軍の連中は政宗様に絶対的な信頼を持っている。それだけでは飽き足らず、密かに恋慕の情を抱いている奴だって珍しくない。 そんな獣の中に政宗様がいて、どうして襲われないのか。それは、俺が政宗様と恋仲であるということが知れているからだ。皆「小十郎様なら仕方がない」と諦めて、今は政宗様を護ることだけに尽力している。 しかし、奴らが知っているのは俺と政宗様の関係だけだ。実際に俺たちが抱擁しているところや、まして接吻しているところなど、誰も見たことがないだろう。 奴らはどこか、俺たちの関係を現実として受け入れきれていないきらいがある。そんな奴らに決定的な場面を見せることは、非常に危険なのだ。 「政宗様…」 「良いじゃねぇか…今俺は最高に機嫌が良いんだ。その気分を台無しにすんのか?」 「そういうつもりは…」 「もう喋んな…」 政宗様の指が、頬に添えられる。そんな些細な感覚にすら、いちいち鼓動が高鳴る。 人の気も知らないで、と心の中で悪態をつく。他の家臣を嫉妬させるのは確かに危険だとは思う。しかし、一番危険なのは俺の理性のほうだ。こんなところでたがが外れでもしたら、いくら政宗様から誘われたとは言え、圧倒的に俺が悪くなる。そんな事態だけは絶対に避けたかった。 そっと、政宗様の唇が俺の唇に触れる。柔らかくて、甘い。ここが閨であれば、間違いなく俺の理性は彼方へ飛んでいたことだろう。 なけなしの理性を働かせて、政宗様の肩を押す。政宗様は不満げな顔をして俺を見ている。 「小十郎…」 「戯れも大概になさいませ。ここをどこだと思ってらっしゃる」 「…クソ真面目」 「何とでも」 興醒めだ、と政宗様は呟いて俺の側から離れた。 その後ろ姿すら、愛しく思ってしまう。俺に構ってもらえずに拗ねるだなんて、いつまでも子どものようで。 「政宗様」 「なんだよ」 「今夜、御部屋へ伺ってもよろしいか」 「は?」 「私も男ですので、愛しい貴方様にこのように煽られて平気で居られるはずがないのです」 情けない声で言うと、政宗様は頗る嬉しそうな表情でお喜びになった。なんと愛らしい姿なのだろう。こんなに可愛らしい主を独り占めにできるなんて、俺はとんだ果報者だ。 まだ来ぬ夜を想うとどうにも顔がにやけてしまう。俺は城に帰るまでどうやってこの表情を隠そうかと頭を悩ませた。 end. ★ [*前へ][次へ#] [戻る] |