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手玉に取られているのは(ノムハロ)





※ノーム×ハローです








 例えば僕を見るその瞳ひとつとっても、よくわからなくて。これだけ長い間ビジネスパートナーとしてひとつ屋根の下で生活しているくせに、ノームのことについてはわからないことだらけだ。

 僕たちはもう何年も一緒にいる。その間にそれなりに心を通わせて、なんとなく恋人の真似事のようなことをしていた。気まぐれに寄り添って、寂しくなったらキスをして、人恋しくなったら体を重ねる。それだけの関係だ。お互いに甘い言葉も囁かない。まして、「好きだ」などと言えるわけもない。そもそも、自分がノームに対してとんな感情を抱いているのか、自分でも理解できていないというのに。
 …ただひとつ分かっていることは、こんな生ぬるい関係を、どこかで愛しく思っているということ。







「ハロー。いつまでこうしていればいいんだ?」
「僕がいいって言うまでだよ」


 僕は、床に座り込んでぼーっとテレビを見ていたノームの背中に抱きついていた。広い背中。優しくて温かい体温。真夏の暑さなんて感じない、この空調のきいた部屋でこうしてくっついているのは気持ちが良かったし、何より心が落ち着いた。


「いつ満足するんだ」
「あとちょっとだよ」
「うーん…そうか…ねむいから早めに満足してくれ」
「なにそれ、失礼じゃない!?」
「ううん…すまん… あっ」
「ん?」
「赤…」


 ノームが見ているテレビに目を向けると、ある青年が川で溺れている犬を助けたというニュースが流れていた。しかしよく見ると報道されている青年はハウウェザーのハレで、満面の笑みを湛えながらライと一緒にマスコミのインタビューを受けていた。
 …なんてしょぼいことでニュースになってるんだ、と呆れていたが、ノームはその映像を見ながら息を荒くしていた。どうやら赤に反応したらしい。
 僕はため息をつきながら、後ろからノームの目を手で覆い隠した。


「あ…え、ハロー?」
「ノーム、ちょっと落ち着いて」
「あ、ああ…すまない…」
「ね、ノーム」


 ニュースは既に別の話題に移っていた。それでも僕はノームの目を覆い隠したまま、耳元で囁いた。


「ノームは、ハウウェザーの赤いの、すき?」
「…すき? すき、というか、追い掛け回したくなるな…赤いから」
「ふん。まあそうだろうね」
「だから好きとは違うぞ」
「でも、興奮するんでしょ?理性なくなっちゃうもんね?」
「え…ああ…確かにあいつを見ると我を忘れる…」
「ほら、やっぱり好きなんじゃないの? あ、今度僕も赤い服着てみようかなぁ?」


 ノームと喋っていて、少しばかりムキになっている自分に気づいてハッとする。あんなしょぼい奴とこの美しい僕。比べるところなんか一つもない。それなのに、ノームに必死になって追い掛け回されているハレを、どこかで羨ましく思っていた。
 そういえば、ノームにあんなに必死に求められたことなんてなかった。別に恋人でもないのだから気にすることでもないはずなのに、何故か心がモヤモヤしてしまっている。そんな自分が情けないやら女々しいやらで、思わず溜息が漏れる。


「ハロー」
「…なに?」
「手、離してくれ。眠くなる」
「はぁ、わかったよ。もういい。元々眠いんでしょ? どうぞ勝手に寝てください」
「ハロー?なに不機嫌になってるんだ?」
「別に」


 僕はノームに回していた腕を解いて、座っているノームの隣に寝転んだ。ああ、勝手に嫉妬して、勝手にへそを曲げてしまった。ノームは口には出さないけれど、めんどくさいと思ってるんだろうなぁ。まあ、頭で理解しているからといって、今更この性格を変えられるはずもないんだけど。
 そろそろお風呂にでも入ってこようかなあ。今はできるだけ何も考えたくないんだけど…と、ほんの少し目を閉じて思案していると、なんとなく僕を覆う影の気配がした。ふと目を開けると、ノームが僕に覆いかぶさっていた。


「え…ノーム?」
「ハロー、嫉妬か」
「な…っ!? なに言ってるんだよ!僕がハレに嫉妬してるなんてありえない!!」
「…誰もハレとは言ってない」
「…っ!」


 ノームはいつもの、読めない目で僕を見つめていた。ぼんやりしたノームの瞳には、焦った僕の顔が映っていた。


「ハローとハレはちがう」
「…わかってるよ」
「ハレは赤いから追いかけるだけだ」
「だから、わかってるって」
「でもハローは、ハローだから傍にいるんだ」
「…っ、は…?」


 覇気のない目に、ほんの少し熱が宿った気がした。僕はなんとなく気恥ずかしくて目を伏せた。


「なに、恥ずかしいこと言ってるのさ」
「本当のことだ」
「バカじゃないの…」
「あ、あと、赤い服を着るのはやめろ」
「え…なんで?」
「ハローにあんな乱暴をする気はない」


 そう言ってノームは、僕の頬に触れるだけのキスをした。
 ああ、どうしてそんな、僕を翻弄するようなことを素でやってのけるんだろう。どんどん鼓動が速くなっていく。僕はもっと、と強請るようにノームのシャツを掴み、そっと引き寄せた。
 ノームの唇が瞼に触れ、鼻先に触れ、頬に触れ、口角に触れ、そしてやがて唇に触れる。重なった唇はお互いを求め合って、舌を絡め合い、酸素を奪い合う。


「んっ…ノーム…ん、はあ…っ」
「ハロー…」
「ね、もっと…」


 ノームの頬に手を添えて、上目遣いで甘えるように言った。ノームが息を飲んだのがわかった。嫉妬とか、そんな馬鹿馬鹿しい感情なんて消して欲しい。
 ぎゅっとノームに抱きつくと、耳元で熱い吐息が…吐息…?


「ふあぁ…んん…」
「…あれ、ノーム?」
「すまん…続きはちょっと寝てから…」


 ああ、所詮ノームは完璧なイケメンではないのだ。どうせ寝て起きたらさっき言ったことも忘れてしまうに決まっている。ちょっとでもときめいてしまった自分が猛烈に恥ずかしい。穴があったら入りたいくらいだ。


「もう!ノーム!!重たいから退いて!!寝るなら自分の部屋で寝てよ!!」
「ううん…ハロー…いい匂い…柔らかい…抱き枕にちょうどいい…」
「うるさいな!筋肉がないとでも言いたいわけ!?ちょっと中性的な方が美しいじゃない!!っていうかほんと退いてよ!!」
「あと5分…」
「5分で起きたことなんて今までで1回もないじゃん!! あーもう…」


 伸し掛ってくる重みも、体温も、鬱陶しいけど嫌いじゃない。そう思っている時点で、もしかしたら僕の負けかも知れない。

 僕は覆いかぶさってくるノームから力尽くで抜け出した。そしてひとつ大きなため息をついて、ノームを見下ろす。部屋まではさすがに運べないけど、仕方ないからタオルケットでも持ってきてやろうかな。別に心配だからとかじゃなくて、 仲間に風邪をひかれたら困るだけだ。はやくハウウェザーを倒さないといけないのに、ノームの看病なんてしてられないじゃないか。だからあくまで、これはビジネスパートナーとしての感情で、仲間としての「すき」だ。

 僕は自分にそう言い聞かせて、ノームの部屋にタオルケットを取りに行く。そろそろ誤魔化しきれなくなりそうな自分の感情に、少しだけ焦燥感を抱きながら。
 










end.












初書きノムハロでした。
この二人の出来上がってる感に今更気づくとは。













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