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煙が目に染みる。※R18





※アメ×ヤンユキ
※ぬるいえろ有








 情事を終えた後の部屋は、気だるさを帯びている。薄暗い部屋。俺はといえば、もう一回したいと甘えてくるアメを無視して、煙草を吹かしていた。煙が肺に溜まっていく。部屋はぼんやりと霞んで、煙草の苦いにおいが充満している。視覚も、嗅覚も、呼吸さえもままならない。夢か現実かわからなくなる。余韻と、空しさと、寂しさと。でもどこか安心感もあって、ずっと味わっていたいような、早く抜け出したいような。


「ねぇ、ユキ」
「あ?」
「煙草、いつから吸ってるの?」


 アメは少し悲しげに言った。何がそんなに悲しいんだか。まあ、どうせこいつのことだ。昔の俺と今の俺を比べてるんだろう。昔の、弱くて小さくて頼りない、一人では何もできなかった頃の俺と。

 誰かに守られてばかりだった。それが嫌だった。ユキは可愛いね、と何度も言われた。俺が守ってやると何人もの男から言われて、もううんざりだった。俺はどんなことは望んでいない。むしろ、誰かを守りたいと思っていた。困っている人を、悪に虐げられている人を、そして…自分の大切な人を。
 その反発心がどこで歪んでしまったのか、自分でも思い出せない。ただ、力を誇示することが強さだと思った。たとえ誰かを傷つけたとしても。

 今の俺はただ暴れまわって、人を傷つけながら自分の強さを誇示している。誰かを守りたい、と息巻いていた当時の俺に申し訳ないと思う。今の自分はどうしようもない奴だと、思う。
 そう思って眠れないことも度々あって、それを誤魔化すために覚えたのが煙草だった。黒い煙は吸い込むたびに俺の体内を染めていく。吐き出す度に俺の空しさまで吐き出してくれる。いつから吸ってる? そんなこと、もう思い出せない。


「さぁな。覚えてねぇよ」
「…やめないの?煙草」
「お前には関係ないだろ」
「…っ、ごめん」


 アメは大切な人だ。俺がこんな風になっても、変わらず一緒にいてくれる。ただ前よりもびくついていて、衝動的に殴ったときも、恍惚の表情を浮かべながらもどこか悲しそうで。
 何が、大切な人を守る、だ。何もかも傷つけて、人に迷惑ばかりかけて。こんな自分に吐き気がする。吐き出した煙は空しさと共に部屋に広がる。


「ユキ、もう一回したい」
「嫌だ」
「お願い、もう一回だけ」
「しつこい」
「っ、ユキ…!」
「ちょ、お前! いい加減に…っ!」


 アメは、余裕のない表情を浮かべて俺を押し倒した。がっつくように激しいキスをされる。

 結局抵抗しても無駄だと悟り、俺はアメに好き勝手させていた。必死に俺の体に触れ、どこかに痕を残そうとするアメを見ていると、なんとなく、泣きたくなった。アメはいつも、苦しそうに俺を抱く。以前の俺の面影を探しては、これじゃないと嘆いている。こんな俺のことなんか放っておけばいいのに。アメが求める「ユキ」は今の俺の中にはいない。いくら抱いたって、あの頃には戻れない。哀れだ。馬鹿だ。俺に、何を期待してるんだ。
 もう、やめてくれ。


「ユキ…すきだよ…」
「…っ、馬鹿、気持ちわりぃこと、っ言うな…ぅ、あ…!」
「ユキ…だいすき…ねぇ、こっち向いて…」
「は…、」
「ユキ…っん…」
「んん…ふ、ぁ…」


 苦痛と快楽で頭がぐちゃぐちゃになっていく。アメに激しく揺さぶられながら、いっそ何もわからなくなるまで溶かされてしまいたいと思った。
 思考が追い付かない頭はただアメのぬくもりだけを求める。アメは苦しそうに、でも満足そうに笑って、何度も好きだと繰り返した。その声がいつまでも耳の奥にこびりついて離れなかった。

















*****












「ユキ…」


 昨夜無理をさせたからか、ユキはぐっすりと眠っていた。眠っている姿はあまりに無防備で、こんな風になってしまう前の、優しいユキに戻ったみたいだった。
 どうしてこんな風になってしまたのだろうかと考えることがある。僕はずっと近くでユキを見てきた。なのに、止めることもできなかった。今だって引き戻すこともできていない。


「ごめんね…」


 「強くなりたい」とユキは口癖のように言っていた。その度に僕は「僕が守ってあげる」と言っていた。その時、ユキが困ったように笑っていたのを、照れ笑いだと勘違いして、勝手に思い上がって。それがユキを追い詰めていたんだと知った時にはもう遅かった。

 好き好んで暴れまわっているなら、僕はそれを受け入れただろう。でも、ユキは今の状況に苦しんでいる。それを見るのが嫌で、だからユキを助けたい。それなのに僕にはその方法がわからない。

 結局ユキを守ろうとして、僕が壊していた。それを戻すことなんてできないかもしれないけれど、僕はユキから離れる気はなかった。

 ユキはいつも苦しそうな顔をしながら僕に抱かれている。いくら抱いても罪悪感が僕を襲う。それでもやめてあげられないのは、ユキが一瞬見せる甘えるような表情に昔のユキの面影を感じてしまうから。そのまま気持ちよくなって、何もかもうやむやになって、そのままあの頃のユキに戻ってくれないかと願っているから。


「ユキ、大好きだよ。ね、ユキが嫌って言うまで、ユキの側にいさせて」


 ユキの寝顔はどこかあどけなくて、幼い。あの頃と何も変わらない。少し傷んだ、ユキの金髪に指を絡める。そしてそっと髪に口づけた。やがてその唇は額に触れ、瞼に触れ、頬に触れ、そして、唇に触れた。わずかに開いている唇を舌でなぞる。煙草の味が少し苦かった。その苦さは、ユキの心の痛みなんだと思った。


 いつか、あの優しい表情で僕に笑いかけてくれる日は来るのだろうか。もし、そんな日が来なくたって、ユキが僕に笑顔を見せてくれることなんかなくったって、僕はずっとユキの側にいたい。そして、どんな表情も、誰より近くで見ていたい。だって僕は、



「どんなユキだって、愛してる」


 だからどうか、自分を追い詰めることはしないでほしい。自分を傷つけたくなったら、僕を呼んで、僕を思いっきり傷つけたらいい。

 ユキは今も気持ちよさそうに眠っている。僕はユキを抱きしめながら目を閉じた。心臓の音がと温もりが心地よかった。

















end.















ユキちゃんが心の痛みをごまかすために煙草を覚えてたら萌える。















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