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愛しき心配性。







『外もだいぶ涼しくなってきたことだし、酒でも飲まないか。その…二人で』


タイフウさんから誘いがあったのは、先週のことだった。それからお互いの都合をあわせ、やっと今夜、チュウイホウの基地で、二人で会うことになった。
タイフウさんは、双子のことや悪の組織に染まりきれない自身にいろいろと悩んでいるらしい。確かにタイフウさんの周りにはそういった愚痴をこぼせる相手は少ないのかもしれない。僕自身、ハウウェザーのメンバーについて思うところもある。情報交換も兼ねて、タイフウさんと話せるのは嬉しい。僕は家事を一通り済ませて出かける準備を始めた。


「お財布に鍵に…あとは…」
「ユキ?どうしたの、こんな時間に」
「アメ…」


厄介な人に見つかった、と内心苦笑する。アメは昼間ですら僕が一人で出歩くことを嫌がる。ましてや夜に出歩くなんてもってのほかだろう。僕だってもう立派な成人男性だというのに、アメの中では体が弱く危うかった頃の僕で止まってしまっているのだろうか。そういえば、あの頃アメは「僕はユキのヒーローになる!」と何度も言っていたっけ…
何はともあれ、事情を話さないわけにはいかないだろう。僕は渋々用件を伝えた。


「今からタイフウさんと飲みに」
「は!?今からってもう10時じゃない!」
「まだ10時にはなってません。このくらいの時間じゃないとお互い暇がなかったんですよ」
「だからって…この時間からだと今日中には帰ってこないんでしょ!?」
「まあ…そうなりますかね?」
「そうなりますかね、じゃないの!!まさか泊まってくるつもりじゃ…!」
「…あなたたちが起きるまでには戻る予定です」
「何それ!!だめだよ絶対!!」


目の前で発狂する様子にちょっとした苛立ちを覚えつつ、どうにかしてこの男を宥める方法を思い巡らせたが、アメがあまりにうるさくて考えがまとまらない。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないよ!」
「僕だって子どもじゃないんですから夜道を一人で歩くくらいできます」
「そういうことじゃなくて…ああもういい!僕もいく!」


珍しく苛立っているアメの姿に、少し動揺する。アメは、何をそんなに必死になっているのだろうか。僕がそんなに頼りないのだろうか。


「僕だって、もう弱くなんかありません」
「だから違うって…」
「何が違うんですか?自分の身は自分で守れます。小さかった頃と一緒にしないでください」


甘やかされている。常々そう感じてはいたが、さすがにもう甘やかされる必要はない。むしろ、僕がアメを守れるようになりたいとさえ思っているのに。


「…わかってるよ。ユキが強いのは」
「…」
「でも、前もケイホウに拉致されたでしょ?」
「あれは…っ」
「あの時、心臓が止まりそうだったんだよ」
「…すみません」


真剣な声。確かにあのときのアメの泣きそうな顔は、今でも鮮明に覚えている。無事にケイホウから逃れられたから良かったものの、今思えばあの事件以来、アメの心配性に拍車がかかったのかもしれない。僕は、少し情けない気持ちになった。
アメはさらに優しくこう続けた。


「それにさ、もしタイフウに何かされたらどうするの?あの人一応敵なんだけど」
「タイフウさんは僕に何か危害を加えるような人ではありません」
「その信頼がどこから来るのかしらないけど、あんまり安心しきっちゃだめだよ」
「それは…そうですけど…」


曲がりなりにも相手は敵だ。まあ、タイフウさんなら何とか一人でもやっつけられそうな気もするが、敵のテリトリーに単身で踏み入れるのは危険なのかもしれない。


「すみません…」
「あとね、これは恋人として言うんだけど…」


アメは、僕の手を握り、真剣な表情で言った。


「酔って可愛くなったユキを、タイフウには見せたくないなぁって」


まるで子どもみたいな独占欲だと思った。でも、それが心地よくて、思わず笑ってしまった。


「ばか」
「ばかでいいよ。ユキのことになるとばかになっちゃうのはわかってるから」
「…あ、もうこんな時間」
「え、いくの?」
「約束ですから」
「嘘でしょ、こんなに一生懸命伝えたのに行っちゃうの?」
「お酒、控えめにしますから」
「…僕も一緒に…」
「じゃあ、車でチュウイホウのところまで送ってください」


にっこり笑って言うと、アメは諦めたようにため息をついた。


「心配しなくても、僕は他人の前で気を抜いたりしませんよ」
「ほんとかなぁ…」
「僕が本当に気を許せるのは貴方だけですから」
「っ、!」


そう言って、軽く頬にキスをした。少しずるいやり方だったかもしれないが、今回はこれで勘弁してもらおう。
アメは「今日だけだからね」と言って車のキーを取りにいった。

ちなみにこの後、アメがチュウイホウ宅に着いてから玄関まで僕を送った挙句「ユキに手を出したらどうなるかわかってるよね?」と今まで見たこともないような笑顔でタイフウさんを威嚇したのは当然の話だ。










end.









心配性で過保護なアメ様。














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