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恋は戦争(アメユキ←双子)





※アメユキ←双子









今まで僕は自分に過大な自信を持ちすぎていたのかもしれない。ユキの隣は僕以外あり得ない。そう思って疑わなかった。それが自意識過剰だなんて思ったことはなかったし、ましてやそれを脅かされるなんて考えもしなかった。僕はユキに愛されていて、その事実は揺るがない。例えライバルが現れたとしたって、僕が負けるわけがない。でも、これには根拠がない。ただ漠然と、僕がそう思うだけだ。そして今、そのなんの根拠もない自信が、崩されそうになっている。


「ユキちゃんってほんとにかわいいよね!」
「ほんとに!肌も白いしさ…綺麗だよ」
「もう二人とも、あまり大人をからかうものではありません」
「大人って…今はぼくたちも大人だよ!」
「そうだよ!十年も年取っちゃえばそんなに変わらないでしょ?」
「そうですけど…」


今までなら全く相手にもしなかったこの双子。最近十年トシトールなる怪しいことこの上ない薬を作ったとかで、ちょくちょくそれを飲んで大人の姿になってはユキに会いに来るようになってしまった。ユキも最初は戸惑っていたが、成長しても中身はやはりあの双子のままなので警戒心がない。それをいいことに双子はユキに甘えっぱなし。ユキも満更でもなさそうに笑っている。さっきみたいな、端から見ていれば確実にセクハラな発言も、ユキはスルーしてしまう。元々身内に甘いユキだ。ちょっとそんなことを言われるくらいは許容範囲内なのだろう。

ああ、イライラする。


「あ、もうそろそろ薬切れちゃうかも」
「ほんとだーもうちょっと効能長持ちするように改良しなきゃね」
「ヒョウ、アラレ。そんな薬飲まずに普通の姿で遊びに来てください。僕はあなたたちの体が心配です」
「大丈夫だって。体に悪いものは入ってないからさ!」
「そうだよ。ユキちゃんが心配することないよ」
「でも…」
「それより、さ。ユキちゃん」


いつもの姿でやっても滑稽だとしか思わないであろう仕草だった。ヒョウはユキの肩に手を回して、ぐい、と自分の方へ引き寄せると、ユキの耳元でそっと囁いた。


「ユキちゃん、考えてくれた?ハウウェザーやめて僕たちと一緒にユニット組もうって話」
「またその話ですか?気持ちは嬉しいですけれど、ハウウェザーをやめるわけにはいかないって何度も言って…」
「でもさ、僕たちユキちゃんいっつもしんどそうじゃん。ハウウェザーのみんなは家事なんか手伝ってくれないんでしょ?ユキちゃん一人でやってるんでしょ?」


そう言ったのはアラレだった。アラレはユキの腕に絡み付いて、上目遣いにユキを見ていた。あざとい。さすがこの双子といったところか。


「まぁ、それはそうですけど…」
「僕たちと一緒に暮らせば、家事だっていくらでも手伝うよ!」
「そうだよ!だからさ、ユキちゃんのことこき使うハウウェザーなんかやめて、僕たちと一緒に、ね?」


ユキが身内に甘いのは知っている。それに、身内を攻撃されるのが何より嫌いなことも、知っている。だから僕だって我慢してきたんだ。でも、さすがに我慢の限界。ユキを双子に譲る?ふざけるな。ユキはハウウェザーにとって大切な仲間で、僕にとってはかけがえのない大切な人なんだ。


「ちょっと君たち。ユキが困ってるじゃない」
「っ、アメ…」
「うぇーアメだー」
「変態だー」


双子が口々に勝手なことを言うのを無視して、僕はユキを見た。無意識に咎めるような表情をしていたのだろう。ユキの顔が少し曇った。


「ユキ、ちょっと二人を甘やかしすぎなんじゃない?」
「でも、二人はまだ子ども…」
「子どもじゃないでしょ?薬の力とはいえ、大人の姿になってるんだから」


そう言って二人を睨むように見ると、二人は少しばつが悪そうにうつむいた。


「でも、僕たちはいくつになってもユキちゃんに甘えたいし…」
「っていうかアメはユキちゃんと同い年のくせにユキちゃんに甘えまくってるじゃん!」
「失敬な!甘えてるんじゃないよ!あれは愛のスキンシップ…」
「アメ気持ち悪い!」
「ますますユキちゃんをそばに置いておけないよ!」


僕だってユキが大好きだからよくわかる。ユキはかわいいし、守ってあげたくなる。それに、自分だけのものにしたくなる。それほどユキは魅力的なのだ。
だからと言って双子にユキを譲るわけにはいかない。ここは子どもだろうが大人だろうが負けられない。


「大体君たちはずるいと思わないのかい?薬なんか使ってユキに近づいて…」
「そんなの幼馴染みだからってユキちゃんのそばにいるアメの方がずるいもん!」
「僕たちとユキちゃんは親戚なんだからユキちゃんと一緒にいたいって思って何が悪いのさ!」
「それはそうだけど…いくら薬を飲んで姿だけ大人になったって年の差は変わらないんだよ?誤魔化したってユキには近づけないの、わかってる?」
「…っ!」



そこまで言って、双子の目が少し潤んでいるのに気づいた。この子達だってバカじゃない。むしろ、自分達の感情にも、自分達が置かれている状況にも、とてもさとい子達なのだ。少し言い過ぎてしまった。そう後悔しても遅かった。


「っ、わかってるもんそんなの!」
「でも、僕たちだってユキちゃんと対等にお話ししたかったんだもん!!」
「アメなんかに言われなくたってわかってるよ!!」


大人びた顔をくしゃりと歪めて涙を堪える表情は、やはりいつもの子どものままの双子と同じだった。ユキは双子を困ったように見つめて、そっと二人の頭を撫でた。


「アメ、言い過ぎですよ」
「…ごめん」
「ヒョウ、アラレ。そんなに悲しまなくてもいいんですよ?君たちはアメなんかよりもずっと賢い良い子ですからね」
「ユキちゃん…っ」
「っ、ユキちゃん…!」


堰を切ったように泣き出した二人の体が、少しずつ縮んでいく。どうやら薬の効果が切れたらしい。二人はユキに抱きついていた。ユキはそんな二人を優しく抱き締めていた。


「ヒョウもアラレも今のままで十分魅力的ですよ。だから、もっとゆっくり大人になってくださいね?」
「…ユキちゃん、それまで待っててくれる?」
「もちろんです」


ユキがそう言うと、二人は途端に笑顔を取り戻した。さすがユキだ。双子の手懐け方は熟知しているらしい。
でも微笑ましい三人を見ても、僕はやはり釈然としない。


「ユキ…いいの?そんなこと言って…」
「…うかうかしてると、この子達に抜かされちゃうかもしれませんね」
「え!?」
「ふふ、今から楽しみです」


ユキはそう言うと、双子を迎えに来るようにタイフウに電話をかけにいった。


「え、ユキ!?それ本気で言ってるの!?」
「わーい!アメ振られちゃったね!」
「僕たちが本気出したらアメなんてちょろいもんだよ!」
「縁起でもないことを言うのはやめなさい!」


電話で話している後ろ姿に抱きついたら殴られた。それなのにユキの表情がどこか楽しそうで、僕はどうにもわからなくなる。
でも、悩んでいたって仕方ない。僕は僕なりに、ユキに見捨てられないように頑張るだけだ。

僕とこの末恐ろしい双子とのユキをめぐる戦いは、まだ始まったばかりなのだから。










end.









見事ユキちゃん争奪戦に参戦した双子なのであった。











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