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貴方から、私から。(クモユキ)








窓の前で体育座り。彼の髪の毛は気ままに跳ねている。窓に反射している彼の表情は暗い。
その表情と同じように、外は今にも雨が降りそうに暗く曇っている。


「クモリ、いつまでそうしているつもりですか」
「雨が降るまで」
「…困った人ですね」


一言で言うならば、クモリは拗ねている。それも、くだらない嫉妬で、だ。僕があまりにアメに構いすぎるのが気に入らなかったのだろう。クモリは思ったことを口に出してくれないけれど、それくらいはわかる。


「拙者みたいなオタクより多少変態でもイケメンのほうが良いんでござろう…」


クモリのネガティブは今に始まったことではない。ただ、付き合い始めてすぐはいろいろと戸惑うこともあった。ネガティブで傷つきやすいくせに口に出して不満を言うこともない。最初はクモリの感情を読むことが難しかった。しかし、それは時間が解決してくれた。今では、口にこそ出さないものの、だいぶわかりやすくなったほうだ。少々鬱陶しいのも否定はしないが。


「クモリ」
「放っといてくれ」
「そういうわけにはいきません」


僕はしゃがみこんでクモリを後ろからぎゅっと抱きしめた。クモリは一瞬体を強張らせた。
横顔を覗き込むと、眉を寄せて悲しそうな表情が目に入った。不謹慎かもしれないけれど、それがひどく愛しかった。


「ユキ、」
「僕の一番はクモリです。何度言ったらわかるんです?」
「それは…」


そう言ったっきりクモリは俯いてしまった。またもやもやと考えて悩んでいるのだろう。


「じゃあ、何をしたら信じてくれますか?」
「信じる、って?」
「僕がクモリのことだけ好きだって」


クモリのふわふわとした髪の毛を触る。驚いた表情。ふとしたときに幼く見える。
少しの間沈黙が流れる。クモリの視線が泳いでいる。
そしてその沈黙は、彼にしては意外な言葉で破られた。


「…キス」
「え?」
「ユキからキスしてくれたら、信じるかも」


クモリはいつの間にか体をこちらに向けて、僕をじっと見つめていた。それはどこか縋るようで、ずるい。


「ユキ…」
「、わかりました」


クモリの、少し伸びた前髪をそっと梳いて、頬に触れた。クモリの目は僕だけを映していた。

ゆっくりと近づき、やがて唇が触れる。少しかさついた唇の感触。僕は思わずクモリの唇を舐めた。


「ん、ユキ…」
「あ…すみません、つい…」
「そういうの、だめでござる」
「いや、でしたか?」
「…歯止めがきかなくなる、から」


そう言って、今度はクモリからキスをされた。さっきよりも長い、でも、優しいキスだった。


「クモリ…」
「ん、?」
「僕も、だめです。そういうの」
「ごめん、」
「そうじゃなくて」
「じゃあ…」
「もっとしたくなるってことです」


クモリは一瞬驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに笑った。その表情を見て、僕もつられて笑った。


「機嫌、直ったみたいですね」
「…まあ、そう、かな」
「じゃあそんなところに座ってないで、ね?」
「…」


僕はすっと立ち上がり、手を差し出した。クモリは少し戸惑いながらも、その手を取ってくれた。
しかし、立ち上がったクモリから思わぬ力に引っ張られ、いつの間にか僕はクモリの腕の中にいた。


「クモリ?」
「機嫌、なおりすぎたでござる」
「…え、」
「ユキ…、」


だいすき。

僕を抱きしめる力が強くなったかと思ったら、今度は耳元でそう囁かれた。
あまりに突然で、でも、この上なく嬉しい言葉。
いつもこんなことは言われないからか、体が熱くなってしまう。それはクモリも同じようで、ふと顔を見上げると真っ赤になっていた。


「…照れるなら言わないでください」
「ごめんなさい…」
「でも、」
「…でも?」
「僕も、大好きだから…」
「…っ!」


ぽつり、ぽつりと雨の音が聞こえてくる。とうとう降り出してしまったらしい。
でも、これはきっと彼の心情を表しているのではない。徐々に大きくなっていく雨音は、僕たちの、みっともないくらいにうるさく跳ねる心臓の音を隠すためのものなのだろう。










end.









「だいすき」と言った(言えた)のは数えるくらいしかないクモリさんとか。













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あきゅろす。
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