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ページを捲るような。








初めてユキと話したときのことを覚えている。小さく遠慮がちに笑う声。そのときの笑顔はまるで花が咲いたようで。僕はもう一度その花を見たくて、精一杯の話をした。まだ、何も知らない。幼稚園の頃。

初めてユキと手を繋いだときのことを覚えている。白く細い手にそっと触れると、ユキは黙ったまま俯いた。冷たい手。少しだけ汗が滲んでいた。ユキ、と名前を呼んだ。返事はなかった。ただ、少し呼吸が乱れているような気がした。つい、好きという言葉が口をつきそうになって焦る。まだ言ってはいけない。けれど、お互い薄々感づいている。大人の世界に憧れるだけの、小学生だった頃。

初めてユキとキスをしたときのことを覚えている。誰もいない放課後の教室。想いを伝えてからも、なかなか恋人という関係になれず、僕たちはまだ幼馴染でいた。同じ気持ちのはずなのに、一歩踏み込めない。それがあまりにもじれったくて、僕からユキにキスをした。ユキは体を震わせていた。怖いんです、と震える声でユキは言った。一歩踏み込めば、僕と今までの関係に戻れないのが怖いんだと、言った。僕はユキをそっと抱きしめた。そして、戻る必要なんかないんだと言ってやった。恋の甘さに酔っていた。中学校生活も、そろそろ終わりに近づいた頃。

初めてユキを抱いた夜を覚えている。恋人になって何年にもなるのに、どうしても触れられなかったのは、僕が怖かったからだ。初めて触れた肌は冷たくて、少し触っただけで肩をびくつかせていた。怖い?と聞くと、少し、と小さく答えた。何度も何度もキスを繰り返し、徐々に大胆になっていく。けなげに堪える姿、必死に僕にしがみつく指、不安げに揺れる瞳。すべてが僕を魅了し、理性を剥ぎ取っていった。
この人を一生守りたいと思った。この人をあらゆる敵から遠ざけたいと思った。僕は何度もユキの名前を呼んで、縋るように愛してると言った。ヒーローになりたいと願った夜だった。


そして今、僕たちは相も変わらず愛し合っている。何度も「はじめて」を繰り返し、僕たちは暮らしているのだ。大人になっても本当の恋情なんてわからないし、ヒーローになったって大切な人を守れている保証なんてない。完璧なんて存在しない。そうなりたいと願ったって、たいていは叶わないまま体だけが成長してしまうのだ。
僕は隣に座っているユキの手をそっと握った。あのときのような初々しい反応は見られなかった。でも、呆れたような表情も、僕は案外好きだ。むしろ燃える。

死ぬまで一緒にいようね、と陳腐な言葉を漏らす。ユキは、年寄りくさいですと言って笑う。そんな会話を繰り返すことで、僕はまた嬉しくなってしまう。

あとどれくらいユキと「はじめて」を経験できるだろうか。僕たちの命が消えてしまうまでに、どれだけ同じ時間を過ごせるだろうか。考え始めたらきりがない。でも、そんな時間さえも幸せの種だった。

ふと見た時計はちょうど夜中の12時を指していた。また今日が昨日という名前に変わる。また、ページが増えていく。
ユキは隣でうとうとし始めている。そろそろ寝ようかと言うと、ユキは小さく頷いた。
朝が僕たちを起こしに来るまで、二人で眠りに就こう。僕たちは夜のベールに包まれながらベッドに潜り込んだ。












end.











もし俺がヒーローだったら、的な。


















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あきゅろす。
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