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きみが無邪気に笑うから(ライハレ)



※ライハレ








暖かくなったしどこかに出かけないかとハレに誘われたのは昨日の夜のことだった。ちょうどバイトも休みで予定が空いていたし、俺はその誘いを断わる理由が見つからなかった。
今日は日差しも暖かく、とても良い天気だ。澄み渡る青空が気持ち良い。そして何より、ふんわりと暖かい風は、どこかハレに似ていた。

どこに行くでもなく、ただ二人で街を歩く。途中、おいしそうなホットケーキが食べられるカフェを見つけたが、お洒落すぎて入れなかった。


「俺たちにはあんな店のホットケーキより、ユキのホットケーキのほうが似合ってるよな」
「でも、ユキのホットケーキのほうがあの店のより絶対に美味いと思う」
「確かに。でも食ってみたかったなー」
「お前ほんとホットケーキ好きだよな…見た目に似合わず」
「うるせー」


馬鹿みたいな、ありふれたやり取りが心地良い。そういえば、こんな風にゆっくり二人でいるのも珍しいかもしれない。
穏やかな時間。こんな日が続いていけば良い。

その後も来る母の日のためにユキへのプレゼントを物色したり、その辺の野良猫と戯れたりした(相変わらずハレは威嚇されていて面白かった)。
少し疲れたから、近くの公園のベンチに二人で腰掛ける。暖かい風。また春が来たんだなあとしみじみ思う。


「はー。結構歩いたな」
「そうだな!今日全然寒くねぇしジャケット要らなかったな…」
「それがなかったら休日のお父さんのくせに」
「やめろよそういうこと言うの!俺結構気にしてんだからな!!」


他愛もない会話。いつもならこのまま喧嘩になってしまうけれど、今日はなぜかお互い機嫌が良い。二人で笑って、少しの沈黙が訪れる。気まずいものではない。心地の良い沈黙だった。

空を見上げる。やさしい風が頬を撫でる。
しかし、少し霞んだ空にある人物の顔が浮かび、今までの穏やかな気持ちが消えてしまいそうなくらいぞっとした。


「…なあ、ハレ」
「なんだ?」
「脱げよ」
「は!?いきなり何言い出すかと思ったら!!!お前春の陽気にやられちまったのか!?」
「ば…っちげぇよ!!!ジャケット脱いどけって言ってんの!」


ハレはさっきまで真っ赤にしていた顔から一変、ぽかんと馬鹿みたいに口を開けた。くるくる変わるハレの表情は子どもみたいで見ていて飽きない。


「え、なんで?別に暑いってほどでもねぇし、大丈夫…」
「そういうことじゃねぇんだよ!そのジャケット着てたらあぶねぇだろ!」
「危ない…ああ、ノームのことか。大丈夫だろ。このぽかぽかした日にノームが外にいるわけねーし」


…そしてこの危機感のなさも、子どもみたいで放っておけない。俺のほうが年下だけど。
何でこんなに能天気なんだ。こいつの頭の中はお花畑か。だから一人にさせておけないんだ。俺が守ってやんなきゃって思ってしまうんだ。
何より俺は、こいつのそういう無邪気で天真爛漫なところも好きなんだ。
でも、不安なもんは不安だ。仕方ない。


「…良いから脱げよ」
「え、ちょ…」
「脱げって。襲うぞ」
「なっ…いきなり良い声でかっこいいこと言うなよ!!ちょっとドキッとしただろ!!」


もしこの場にノームがいたら大変だ。特に用事もないし、このまま帰ろうか。
そして、ちゃんとわかってもらわないと困る。ハレにとってノームがどれほどの脅威なのか。一人で出歩いたらどれほど危険なのか。それから、ハレは誰のものなのかとか、俺がどれだけハレのことを心配しているか、とか。


「帰るぞ」
「え、だってまだ明るい…」
「うるさい!お前が悪い!」
「何でだよ!」
「危機感なさ過ぎなんだよ!!」
「お前が心配性なだけだろ!!」


ぎゃーぎゃー喚くハレを引きずって、基地へと帰った。ハレはまだ陽が高いのに、と文句を言っている。どれだけ太陽がすきなんだよ。植物か。
窓の外を眺めているハレを後ろから抱きしめた。ハレは、なんだよ、とすねたような声で言う。機嫌を損ねてしまったハレを慰めるには、こうすることが効果的だろう。

その証拠に、少し傾きだした日差しに照らされたハレの頬は、ほら、笑みを隠し切れないでいる。










end.










心配性な彼氏。












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あきゅろす。
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