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恋の駆け引き(クモユキ)







最近ユキはよくアメにくっついている。理由は簡単。アメの体温は(一般人と比べてだが)低いからだ。急に暖かくなって、ユキもついていけないのだろう。

それにしても、面白くない。だってユキの恋人は、曲がりなりにも拙者なのだから…!!!

…とはいえ。


「言えないでござる…ユキにもアメにも言えるわけないでござる…」


まるで世界の終わりのような悲壮感に包まれる。そして生まれながらのネガティブが暴れだす。やっぱり拙者のようなオタクが恋愛なんて…と思ってしまうのだ。
確かに選んでくれたのはユキだ。でも、気まぐれかもしれない。冷やかしかもしれない。同情かもしれない。
恋人を疑うなんて、と自己嫌悪に陥りつつ、自分に自信がないだけに信じることは難しい。

それに加えてあの光景だ。アメとユキは端から見てもお似合いで、ますます自信がなくなってしまう。
どうせ俺なんてただの引きこもりのオタクだよ!!クモリ系ヒールヒーローなんて勝手に言われてるけどそんなわけないだろ!!


「つらい…」


ため息に混じって出た言葉は、最高に悲しいものだった。ああ、本当に私という生き物はどうしてこんなに厄介なのだろうか。いっそのこと、何も考えずに人生を謳歌できたらいいのに…。

こっそりとユキの様子を窺う。アメと仲睦まじい光景が目に入った。この二人の関係は、ヒーローアカデミー時代から知っている。恋人のようで、実はそうではない。でも、周りから恋人なのではないかと噂されるくらい仲が良い。実際のところはわからないが、ユキの言葉を信じるのなら、二人は「腐れ縁」と言ったところらしい(それすらあまり信用できないのだけれど)。ちなみにアメがユキのことをどう思っているかなど言わずもがなである。

もし、アメが本気を出してしまったら。もし、ユキが掉さされてしまったら。自分の立場なんてあってないようなものだ。どうする。いっそのこと監禁でもするか…いや、ヤンデレは二次元限定…三次元の、しかも男がヤンデレになっても良いことなんて一つも起こらない。いやしかし監禁されているという恐怖で拙者にすがりつくユキはきっとものすごくかわいいに違いない…いやいやでもでもそんなこと…!

出来もしない妄想を繰り返すうちに、虚しさは募っていった。こういうときは、さっさと寝て深夜アニメを待機するに限る。アニメを見ていたら、きっと憂鬱な気分も晴れるはずだ。
そうと決まれば話は早い。私はこの重苦しい気持ちを抱えたまま、部屋へと戻ろうとした。

そのときだった。左手に、少し低い体温を感じた。それは紛れもなく、ユキのものだった。
アメはどこにいったのだろう。というか、私が席を立つのに、どうして気が付いたのだろう。私の脳内は混乱を極めた。


「え、」
「どこに行くんですか?」
「どこって…部屋に戻るだけでござるが…」


上目遣い気味に見上げてくるユキの表情には、憂いが混じっているように見えた。どうしてユキがそんな顔をする必要があるのだろうか。どちらかといえば、そんな表情をしたいのはこちらだというのに。
もやもやと考えているところに、ユキの言葉が混乱に更なる追い討ちをかける。


「クモリは、二次元以外にも興味があるんですか?」
「…は?」
「だから…その…クモリはちゃんと僕に興味はあるんですか?」


こんな風に言いよどむユキは珍しい。見ると、普段は白いユキの頬が、ほんのりピンクに染まっていた。


「ユキに興味、って、あるに決まっているだろう」
「本当に?」
「何が言いたいんでござるか?」
「…だって、クモリは感情をあまり表情に出さないから…不安なんです…」
「不安?」
「本当に、僕のことが好きなのか」


そう言ってユキは俯いてしまった。信じられないが、ユキは私と同じことを考えていたようだ。


「それは、拙者も同じでござる」
「…え?」
「ユキは、本当に拙者のこと好きでござるか?」


ユキは何を言われたのかいまいち理解していないような目でこちらを見ていた。私もこんな表情をしていたのだろう。


「どういう意味ですか?」
「ユキは、アメのほうがいいんじゃないか?」


口にすれば簡単だった。そうだ。私が一番恐れていたのは、そして一番確認したかったのは、これだ。


「何を言っているんですか?」
「だって、最近アメにくっついてばかりだし…」
「あれは…!」
「特別な意味なんてないことくらい、知ってるでござる。でも、自分に自信がないから、つい疑ってしまう…」


ユキの手を取る。そっと握る手は、少し汗ばんでいた。
ユキは驚いたようにこちらを見つめていた。

手と手が触れるだけで気持ちがわかってしまったらどれだけ楽だろうか。きっと、そんなことはありえないし、もし実現したとしても、後々厄介になるだけだろう。でも、望まずにはいられない。だって、こんなにもくだらないことですれ違ってしまうのだから。


「クモリ、僕はクモリのこと、好きですよ」
「ほんとに?」
「アメにくっついていたのだって、貴方に嫉妬させてみたかったからなんです」
「は、?」
「それなのに貴方ときたら、こちらを見向きもしないで…だから、余計に不安になってしまったんです」


…これだから恋愛やら駆け引きやらは苦手なんだ!!ユキも私の恋愛偏差値の低さなど承知の上だったろうに!!!意地悪が過ぎるでござる!!!


「僕はちゃんと、クモリのことが好きですよ。もちろん、アメよりも」
「そう、か…」
「クモリは?」
「拙者も、ユキのことが好きでござる」
「二次元より?」
「そ、それとはまた好きの種類が違うでござる!!」
「…」
「あ、でも、ユキのことは、その…」


愛してる、から…と、なけなしの勇気を振り絞って言った。
幾分声が小さくなってしまったが、ユキにはきちんと届いたようだった。ユキは花が綻びるように笑った。それにつられて、こちらまで似合わない笑顔がこぼれてしまった。


「普段からそう言ってくれれば良いのに」
「勘弁してくれ…恥ずかしがり屋の拙者には無理でござる…」
「じゃあ、せめてそうやって笑っていてください。僕の前だけで良いから」


綺麗な笑みを湛えたユキは、本当に美人で、かわいい。こんな表情を自分が作ったんだと思うと堪らなくなる。
学生時代に、アメと一緒にいたユキを好きになった。こんなに無邪気な表情をするのは、アメの前でだけだと思っていた。でも今は、あの頃のユキの笑顔が間近にある。こんなにしあわせなことが他にあるだろうか。


「ユキ、今夜部屋に行っても良いでござるか?」
「え?」
「一緒にいたい。だめでござるか?」
「、いえ、全然だめじゃありません!でも…っ」
「でも?」
「良いんですか?今日は貴方の大好きなアニメの最終回なのに…」
「録画してるから大丈夫でござる。それに、ユキと過ごす時間のほうが大切、だから」


素直に気持ちを伝えると、素直なリアクションが返ってくる。それを知った今、怖がることなど何もないと思える。
さっきよりも赤くなってしまったユキの頬によりいっそうの愛しさを覚えながら、今夜どんな時間をユキと過ごそうかと思いを巡らせた。







end.







アメは泣く泣く二人を認めたと見せかけて実は全然諦めてないと思います。














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