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時計の針を止めて(タイユキ)
もう行かなくちゃ、とユキは言った。久しぶりの逢瀬だった。けれど時間は残酷だった。
時計の針を戻しても、時間は戻らない。その、何とやるせないことか。
「次はいつ会える?」
「次、ですか…」
「私もなるべく都合をつける。だから、」
「すみません、最近忙しくて、いつになるか…」
ユキの言葉が、ぐさりと胸に刺さる。ユキの表情や態度から、気持ちが離れたわけではないことは伝わってくる。でも、以前のユキに比べて、必死さがなくなっているのは事実だ。
だって、昔はもっと、必死に会おうとしていたじゃないか。
「…ユキは、私のことをどう思っているんだ?」
「どうって…」
「私は、お前のためなら何だって捨てられる」
「タイフウさん…」
「重いと思うか?」
ユキは困ったように目を伏せた。当然か。いきなりこんなこと言われたんだから。
我ながら、子どものような真似をしてしまった。
「なんて、な。変なこと言ってすまなかった」
「っ、タイフウさん!」
ばっと上げたユキの顔が泣きそうで。思わず息が詰まる。
「僕だって、ちゃんとタイフウさんのこと愛してます」
「ユキ、」
「ほんとはもっと会いたいんです…でも、そう上手くはいかないし…せめて、わがまま言わずに、聞き分け良くいなきゃって、思ってたのに…」
いつの間にかユキはまた視線を下げてしまった。泣かないように、と、唇を噛み締めているのがわかる。
ああ、そんな顔見せられたら…
不謹慎なのはわかってる。でも、嬉しいものは嬉しいのだ。
「ユキ、」
「僕だって、タイフウさんを誰より大切に思っています。だから、そんな悲しいこと言わないで…」
肩を震わせて小さくなっているユキを、私は無意識のうちに抱き締めていた。
私は、何を不安に思っていたのだろうか。
「ユキ、ごめんな」
「謝ってほしい訳じゃありません…」
「じゃあ、許してくれる?」
「許すなんて…僕のほうこそ、かっとなってしまって…」
「ユキ、」
ユキの顎に手を添えて、くい、と上に向ける。少しだけ赤くなった目。可哀想で、でも、可愛い。
「仲直りのキスをしよう」
「え…っん…」
「ん…」
柔らかい唇。そっと離れたあと、私を待っていたのは、ユキの笑顔だった。
この笑顔を見ていたらわかることだ。ユキが、私をどれだけ好いているかなんて。
「いつか、二人で一緒に住もうか」
「ふふ、そうですね。いつか必ず」
その“いつか”がいつなのかはわからない。でも、私たちは互いの言葉を疑うことはしなかった。
私の腕に収まりながら、ユキは時計を気にしていた。私はそれに気づかないふりをして抱き締め続けた。
あと5分だけで良い。私はこの幸せな時間を貪った。
end.
家は近所のくせに、とか言っちゃいけません。
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