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キスの意味を教えて。
 

※一応ヒーローアカデミー時代(成人済み)
※not同棲
※くっついてない二人











試験も終わったことだし、久しぶりに二人で飲もうかとユキを誘った。ユキは少し渋りながらも承諾してくれた。
そして今、僕の家で缶チューハイを傾けている。ユキは少しとろんとした目をして、屈託なく笑う。可愛くて、きゅんとする。

僕たちが出会ったのは、幼稚園の頃。確かな記憶はないけれど、出会った瞬間ユキを好きになったことは、覚えている。
友情だとか、恋だとか。当時の僕にそんな分別がつくはずもなく、僕は無邪気にユキに惹かれ続けた。そんな曖昧な感情の正体に気付くのに、さほど時間はかからなかった。
僕は、ユキに恋をしていた。でも、それを簡単に口に出すことなんてできなかった。だから僕は、この感情を自分の中に閉じ込めておくことしかできなかった。

そして、僕たちはいつの間にか大人になってしまった。このままこの感情を引き摺ったまま生きていくのだと思っていた。でも、僕はユキと一緒に過ごす時間に比例して、徐々に気づいていった。もう、限界は近い、と。


「アメとこうして二人で飲むなんて、久しぶりですね」
「そうだね。前は夏休みだっけ」
「もうそんなに前になりますか」
「だって、ユキが僕の家に来てくれないから」


半分は本当。だけど、半分は嘘だ。僕は、二人だけの時間が少しだけ怖くなっていた。一度断られたあと、もう一押しすることができなかったのだ。
缶チューハイをまた一口。爽やかなレモンの匂いに、炭酸が弾ける。そして、少しだけ喉が熱くなった。その熱は徐々に体に伝わっていく。このまま、何もわからなくなるくらい、熱に侵されたらどれだけ楽だろう。そう思ってはみても、今日に限って全く酔えなかった。


「んん、アメ…」
「っ、ユキ…っ?」


左側に体温を感じて、焦る。ふと見ると、ユキが僕の肩にもたれていた。ユキの頬が、赤く染まっている。ああ、どうしてこんな時に、こんなことをするのだろう。


「大丈夫?」
「んー…」
「ユキ、お酒弱かったっけ?」
「いえ…でも、今日は少し、酔ってしまいました」


潤んだ瞳で、上目遣い。あざといほど可愛くて、僕の心を掻き乱す。
でも、これ以上このままの状態でいたら、おかしくなってしまいそうだ。僕は思わず顔を反らした。


「アメ…」
「…っ、ユキ、もうこのくらいに…」
「アメ、こっち向いて」


酔っぱらい顔で、ユキは僕を見た。そして、頭の後ろをぐい、と引き寄せられたかと思うと、ユキの唇が僕の唇に重なっていた。

初めて触れた、ユキの唇。柔らかくて、少し甘い。時々漏れる互いの吐息は、酒の匂いを帯びていた。
まさか、こんな形で重ねることになるなんて。それでも、感情と言うものは正直なもので、やっぱり喜びを感じてしまう。


「んっ…」
「っ、はぁ…!ユキ!」
「ん…ふふ、アメ…」


ふにゃりと笑ったユキは、また僕の肩にもたれ掛かる。

今のキスの意味は、何?
好意?悪戯?気紛れ?

いや、きっとどれも違う。これは、ただの酔っぱらいの戯れ事だ。

頭ではわかっている。しかし、心は信じたくないと叫んでいる。あわよくば好意であってほしいと、叫んでいる。
心臓の音が、もしかしたらユキに聞こえてしまっているかもしれない。格好悪い。でも、所詮ユキは酔っぱらい。あのキスに、深い意味なんてないんだ。

その証拠に、ユキは僕の肩ですやすやと寝息を立てている。


「はぁ…」


人の気も知らないで。
ユキは僕の気持ちなんて知るもんかと言わんばかりに、安らかに眠っている。僕の限界に近い理性が、フル稼働を始めた。
今手を出したら男が廃る。堪えろ。焦らしプレイはお手のものだろう?


「っと…全く、困った人だよ…」


ユキを抱き抱えてベッドに横たえさせた。子どものような寝顔。思わず頬にキスをしてしまった。唇が離れた瞬間、罪悪感が一気に駆け抜けたが、今日だけは許されるだろう。


「おやすみ。好きだよ」


耳元で、そっと言った。ユキは何もなかったように眠っている。

届かなくて良い。届いてはいけない。

僕は涙を堪え、無理矢理笑って寝室のドアを閉めた。明日になって、僕たちを待っているものは、今まで通りの日常なんだろう。








end.







ユキに意識があるかないかはご想像にお任せいたします。










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