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チョコレートは恋の味(ライハレ)
 








チョコレートには催淫作用があると言われている…
そんな噂を小耳に挟んでしまった俺が、それを試さないわけがなかった。

ライは相変わらず、愛情表現が薄い。そりゃ、一応恋人だからすることはするんだけど…何というか、淡白なんだよな…。
それに不満があるかと言えば、大いにある。だって、俺ばっかりががっついてるみたいで恥ずかしいじゃん。俺だって愛されたい。今だって愛されてないわけじゃない。でも、それ以上の愛が欲しいんだ。そう願うのは、わがままかな?


「いいや!わがままなんかじゃないね!俺が今までどれだけ我慢してきたと思ってるんだあの鈍感!!」
「ハレ、少しは静かにしなさい。あとよそ見しない。チョコレートは繊細なんですよ」


俺は今、ユキと一緒にチョコレートを作っている。いわゆる、手作りチョコってやつ。とは言っても、全く手の込んだことはしていない(というかできない)。市販のチョコを溶かして固めるだけの、ごく簡単なものだ。湯煎でゆっくりと板チョコを溶かす。甘い匂いがキッチンを包んでいる。

俺が、バレンタインをどうしようかと悩んでいたときにユキが一緒に作らないかと誘ってくれた。俺と言えば、下手くそなチョコをあげるくらいなら、市販のよく出来たチョコをあげたほうが良いのではないかと不安だった。でも、ユキは言ってくれたのだ。味よりも愛が大切なんです、と。


「ライだって、冷たくしたくてしてるわけではないと思いますよ」
「うーん…でもさぁ…」
「まぁ、精々バレンタインを口実に距離を縮めなさい」
「っ、わかってるよ!」


くすくすと面白そうに笑うユキは何だか可愛かったけど、何故か傷ついた。からかわれてるなぁ…でも、こういうこと相談できるのって、ユキくらいなんだよなぁ。
ユキが今作っているのも、きっとアメにあげるチョコなんだろう(みんなに配る義理チョコは既にラッピング済みだ)。なんかよくわかんないけど手込んでるなぁ。ん?今ユキの溶けたチョコの中に小瓶の液体入れたけど何だあれ。


「ユキ、今何入れたの?」
「ハレにはまだ早いです」
「何それ。お酒?」
「お酒よりももっといいものです。それより、もう溶けたみたいですね。型に入れていきましょうか」


アメにあげるやつだけに特別ななにかを入れたのか?ほんと手凝ってるよな。まぁ、小瓶の謎はとりあえず置いといて、チョコを型に流し込む作業を始める。簡単な作業ではあるが、可愛らしい型に流し込み、色とりどりのハート型の小さなチョコでトッピングをすると、意外とそれっぽく見えるものだ。俺は軽く感動を覚えた。


「なんか、これ可愛いな…」
「簡単だったでしょう?あとはこれを冷蔵庫で冷やし固めて出来上がりです」
「おお!ユキ!ありがとう!」
「別に大したことは教えていないですが…喜んでくれたなら良かったです」


ユキは、あとでラッピングしましょうね、と言って笑った。
これでちょっとはライも喜んでくれるかな。俺は思わず浮き足立ち始めた。







***








『チョコ、バレンタインだからやるよ』
『バレンタインだし、ちょっと作ってみたんだけど、食べてくれるか?』
『べ、別にお前のためにつくったんじゃないんだからな!』


…色々な渡し方を考えているうちに、いつの間にか夜になってしまった。タイムリミットはライが歯磨きをするまで。
俺の手には、きれいにラッピングされた例のチョコレート。早く渡せばいいのに、何故か躊躇ってしまう。ライの部屋の前でうろうろしている俺に、アメはウインクを飛ばしてきやがった。うっぜぇ。うっぜぇけどなんか勇気出た俺もどうかと思う。


「あああやっぱ恥ずかしいよなぁ…!!」
「さっきからうるせぇんだよ!!」
「うわああ!ラ、ライ!!なんだよびっくりするじゃねぇか!!」
「なんだよじゃねぇんだよ!人の部屋の前でぶつぶつぶつぶつ!!気づいてないとでも思ってんのか!」
「、だ、だって…それは…」
「…っ、あー…とりあえず部屋入れよ」


言葉に詰まってしまった俺に焦ったのか、ライは部屋に入れてくれた。
ここまできたら黙り込んではいけない。間があればあるほど気まずくなってしまう…!
俺は覚悟を決め、チョコをライの胸に押し当てた。


「あ、あの…これ…」
「…は?」
「だ、だから…チョコ、だよ…」
「チョコ?」
「っ、バレンタイン!わかれよ!」
「あ…」


状況を理解したのか、ライは顔を真っ赤にして目を伏せていた。ほんとにわかんなかったのかよ!これだから鈍感は!俺まで恥ずかしくなっちゃったじゃねぇか!


「な、何顔赤くしてんだよ…お前が照れることねぇじゃん!お前のためにチョコ作った俺の方がよっぽど恥ずかしいわ!」
「手作りなのか?」
「あっ」
「お前…ああ、もう…!」


ぎゅう、とライに抱き締められる。ライがこんな大胆なことをするなんて珍しいから、異常にドキドキしてしまっている。


「ライ、」
「可愛いことすんなよ、ばか」
「…なぁ、ライ」
「何?」
「チョコ、食べろよ…」


そっと、ラッピングのリボンをほどく。そして、ひとつチョコを取り出して、ライの口に運ぶ。
ふんわりとチョコレートの甘い匂いが部屋に漂った。


「おいしい?」
「うん…チョコ、だな…」
「…そりゃ溶かして固めただけだからほぼ既製品だよ、悪かったな…手の込んだやつはユキに期待して「でも、うまいよ。ハレが、俺のために作ってくれたんだもんな」
「っ、」


そうとびきり甘い声で言ったライは、またとびきりいい笑顔で。チョコひとつでこんなに喜んでくれるなんて、嬉しいやら恥ずかしいやら、複雑な気持ちになった。でも、もし気遣われてるんだったらやだな。俺一応年上だし。子ども扱い、とまではいかないけど、そういうの。なんていうか、ちょっと悔しい。


「ほんとにそう思ってる?」
「何だよ、またネガティブなのか?」
「だって、さ」
「ハレ」
「ん?、っんぅ…っ!」


名前を呼ばれて、顔を上げると、突然のキス。甘い甘いチョコレートの味が脳を支配していく。
こんな甘いキス、初めてかもしれない。


「っ、はぁ…」
「嘘じゃないだろ?」
「え?」
「美味しくなかったのか?」
「、おいし、かった…」
「だろ?」


ライにまたきつく抱き締められ、妙な照れ臭さは幸せに変わっていった。
じっとライを見つめる。なんだ、だらしない顔しやがって。そんな顔も可愛いけど。
ふと、濡れた唇に目がいった。ああ、もう一度…いや、何度でも、ライとキスをしたい。その思いが通じたのか、それとも、俺がよっぽど物欲しそうな顔をしていたのか。それはわからないが、もう一度ライから唇が重ねられた。
そして、キスをしたまま部屋の奥に連れていかれ、気づけばベッドに押し倒されていた。


「え、ライ…?」
「ハレのことも、食べていい?」
「え!?なに、お前、どうしちゃったの!?」
「好きなやつにこんな可愛いことされたら、そういう気分にもなるだろ?」


普段のライからは想像もできない言葉。
そこで、俺はあの噂を思い出した。

“チョコレートには催淫作用がある”

あの噂は、やっぱり本当だったのかもしれない。チョコレートってすげぇ…


「いや、か?」
「っいやじゃない!」
「じゃあ、」


いただきます、と耳元で囁かれる。なんだよ、かっこよすぎるんですけど…!結局俺は、ライに美味しく頂かれた。ユキに言われた通り、距離が縮まった気がする。

甘く香るチョコレート。それは、恋の媚薬、かもしれない。








end.









小瓶の謎はアメユキ編で書きます。










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