ss ごめんなさい 解散!という主将の声と共にメンバーがばらばらと帰り支度を始めた。俺も早く帰ろうとさっさと荷物を取り、グラウンドから出ようとしたときに突然肩をつかまれた。 「なぁお前さ、いつも一人で帰ってんの」 一瞬誰か分からなかった。 元希さんの方から初めて話しかけられた。少しうれしくて、返事をした声に妙に勢いが付いてしまった。 「は い!お、俺と同じ方向の奴いないんで」 「そっか。じゃあさ、一緒に帰るか」 いつも怖い元希さんだけど、俺は大好きだったからさっきより大きな声で返事をした。 「元希さん、どうやったらそんなに筋肉がつくんすか?俺筋トレしてるのに全然変わらないんです。」 「みんなと同じだけやってんならまだまだだかんな、他人以上にやんねぇと意味ないぜ」 そんな、理想の先輩後輩の会話が続く。 話してみるとこの人がどれだけ努力家なのかが伝わってくる。 この人となら自分もどこまでだって頑張れると思った。 「俺、元希さんと甲子園行きたい!」 思わず口にしたその言葉に元希さんは少し驚いていたけど、すぐに笑って頭をぐしゃぐしゃしてくれた。 「かわいいこと言うなこいつ!ついて来いよ、甲子園にだってどこにだって連れてってやるよ。」 その言葉は誰が言うよりも頼もしく俺の心に響いた。 「じゃあ、俺に出来ることはなんですか?」 もっともっと近づきたくて思い切って聞いてみた。 そうしたら元希さんは少し下を向いてぼそっとつぶやいた。 「俺を」 「支えてほしい」 「俺のが上なのにこんなこと言うの本当はやだけど」 ぽつぽつと言葉を紡いでいく。 「俺さぁ、これから、多分お前にひどいこといっぱいする」 「でもお前なら、受け止めてくれるって」 「信じてっから」 そのときは何がなんだか分からなかったけど、今思うと元希さんは元希さんなりにわかっていたんだろう。 そして受け入れられなかったことを、今更に後悔する。 自分は壁としか思われていないと思ってしまったとき、俺の方から元希さんを裏切っていたんだ。 END [PREV][NEXT] [戻る] |