アイマイモコ
12
なんかすげぇ…。
まさかうちのクラスに用事があるとは誰も思ってもいないから、見ろよっ、男子たちが手を小さく叩いてるよ。
だけど、そんな男子にも目もくれずその女の子が視線を彷徨せながら言ったことに俺は動揺した。
「宮沢 陸さんっていらっしゃいますか?」
「……‥」
……え?
「あ、あのぉ…?」
「…あっ、ごめんっ、宮沢だよな?このクラスで合ってるよ。ちょっと待ってて、今呼んでくる」
「はい…」
俺は踵を返して、教室にいるはずの陸を呼びに行った。
けど、誰だろあの子…。すげぇ浮かない顔をしてた。
なんか最近、陸の周りにいろんな人が現れるようになったなぁ。
「………って、あれ?」
マジかよぉ、陸がいないっ。
さっきまで居たはずの陸の席が空席になっていた。 俺はドア付近で待っている彼女のところに戻り、陸の不在を教えると、伝言をしようか、と彼女に言った。
「ごめん。宮沢、今いないみたいなんだけど言付けする?」
「…い、いえ、結構です」
「じゃあ、せめて名前だけでも教えてくれないかな?」
「3年A組、速水奈々です」
…って、中等部の子だったのか。
俺は名前を覚えるのが苦手だから「はやみなな…はやみなな…」と、彼女の名前を唱えるように頭に詰め込んだ。
それにしても、言付けを断ったということは、それほど急いだ様子では無さそうだけど、それと同時に、多分ここでは話せない内容だったんだと思う。
「――ねぇ瑞樹、今の子誰」
「秋っ…」
気が付くと、俺の横に秋が並ぶように立っていた。
またヤキモチなのか?
「ねぇ、誰?」
「さ、さぁ?陸の知り合い?」
「…‥、へぇー」
「……」
またぁ、そんな顔すんなよ…。
俺がそんなこと言っても仕方ないしそんなこと言う資格もないんだけどさ、なんつーか、せめて前みたいに明るく「へえー」とか言ってほしいよ。
声は沈んでるし、笑顔じゃなくて無理やり笑っている感じだし。
今なんて、笑いもしないし。
「秋、あの子がどうしたの?」
「……。別に」
「そ、そっか…。あ、先生来ちゃった。秋、席戻ろう」
「……」
そう言って俺は自分の席に戻っていった。 そして、陸がいつのまにか教室に戻っていたことに溜息を付いた。
――そして、そう促された秋はその向こうで瑞樹をジッと窺っていることにも気付かなかった。
テスト2日目、開始。
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