アイマイモコ
06
子供の頃、母さんは疑う心を持ってはいけない。と言っていたことがあった。
この世には、本当に悪い人なんていない――そう俺に何度も言っていた母さんが、まるで自分に言い聞かせていたようにも思えた。
俺は聞かなかったことにした。
二回目があれば、三回目だってあると分かった時、俺は今度こそ誰かに縋りつくことをやめた。
そんな自分は、とても滑稽で醜くて惨めで気持ち悪いし、何よりも俺の性に合わなかった。
「はぁはぁはぁーあれ、おかしいなあ。陸どこ行ったんだ…」
「………」
俺は瑞樹から逃げ切った。
というより、逃げてる。
昇降口を走り回る瑞樹から逃げるように、隠れられる影を探してはそこに身を潜めていた。
「陸ーっ!」
「………」
「おーい陸ー、どこにいるの!」
戻ってくるはずもない返事をひたすら待って、俺の名を呼び続けるバカな男、笹川瑞樹。
――でもどうしてだろう…。
そう思っている自分がすごくもどかしくてイライラする。
本当に、もう関わりたくないと心から思えば思うほど小骨が引っかかったような衝動にかられる。
もっと気持ちにゆとりが欲しいくらいに不安が積もっていく。
「陸ー!」
「‥……」
あぁ、そっか…。
きっとこれが世間一般で言う、情というやつなんだ。
いくら嫌いなったとは言え、瑞樹との楽しかった時間は変えることなんて出来ない。今すぐにでもこんな記憶、抹消出来たらどんなに楽なんだろうか。
『友達だ』
『うん』
あの頃のことを思い出す。
ほんの片隅に残る程度の思い出。だけど、苦い記憶しかない俺には充分過ぎるほど楽しかった。
中学の校舎、毎日歩いた帰り道、ふざけ合ったクラスメート達、笑い声、怒った顔。
雄大――…
いつでも俺を見守っていてくれた大事な友達。
『大丈夫か、陸…』
そして、
瑞樹…
俺が心から愛した大切な恋人。
『好きだよ、陸…』
それが、どれも心地よかった。
だけど、もう昔のような日々に戻る事なんてできない。
笑い方を忘れたんだ…。
簡単に泣くこともできない…。
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