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アイマイモコ
05

『俺、佐原雄大っつーの!』

『俺は、笹川瑞樹』

中学生の頃の俺はそんな二人によろしくね、と差し出されたその右手を、もう一度信じてみようと思ったんだ。

『よろしく〜』



小学5年の春――…

母さんが死んで、悲しみに暮れる暇もなく突然、1、2回しか見たことのない父親だと名乗る男に、手を引かれ連れてこられたのはこの辺では割と有名なデカイお屋敷の、河野内家だった。
母親が死んで住むところも食うことも不自由だった俺はその人に付いて行く他なかった。母親には親戚はいない。
そして、俺が与えられたのは二階の一番奥の部屋だ。

『今日からお前たちは、河野内家の子だぞ〜!』

『はい』

『うん』

父親は手招きをしながら、俺たちを快く歓迎してくれた。
そして招かれた方に行くとそこには俺たちの他に、若い女の人と、ニコリと微笑む俺と同じ年くらいの男の子がいた。

母さんが居ないのは寂しくて心細かったけど、巧もいるしここにいる人たちも優しい人達ばかりだったので、いくらか救われた。

無邪気で従順だったあの頃――

それを信じて疑わなかった。




「――待ってよ陸!」

「っ、……」

つい昔の事なんか振り返ってしまっていた。
昇降口まで足を向けたところで、血相を変えて俺を追っかけてきた瑞樹が俺の手を引かれた。
けど俺は顔色一つ変えなかった。

「まだ何かあるの?」

「ある!」

「………」

へんなとこでしつこくなる所は変わっていない。

「俺は陸が好きだ!」

「‥……」

「俺、もう一度陸と…」

「やめろっ!」


瑞樹は中学の頃から、自分が端正な顔立ちだという自覚があるにも関わらず、その美貌が故、ヤツは自分が学校中に、周囲に近寄らせ難いオーラを放っていたことに気付いてなかったのだ。
それをアイツは、嫌われているのだと疑わない日はなかった。
だから俺はアイツを慰めた。

『瑞樹…。お前は嫌われてなんかいないよ』

『陸の嘘つき!みんなコソコソ何か言ってるじゃないか!』

『違うよ。あれはみんなが瑞樹に憧れてんだよ』

『………‥』

あの頃の俺は、誰かの為に、と正義感を振りかざしていた。きっと、見返りを求めていたんだ。
良いことをすれば、必ず自分にも良いことがある、と…――まだ純粋さと無垢な心の残った真っ白な俺はそう信じていた。

『──さようなら』


「……っ、」


俺にとって、2度目の裏切りがあるとも知らずに……。

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