アイマイモコ
22
それから歩くこと数分。おばちゃんは「ここよ」と、にっこりと笑って案内してくれた。
…つーかここって、俺が何度も歩き回ってたとこだし。
「………」
そしておばちゃんが案内してくれた通り、そこには「宮沢」という表札があった。
お世辞にもキレイとは言い難い家だったけど、木造で屋根瓦があり、今は少なくもなった縁側がありそうな懐かしいお家だった。
そういえば、俺は陸を自分の家に連れて行ったことはあったけど、陸の家には一度も行ってないって事に気付いた。
一度陸に「行きたい」と言ったら「散らかってるしキレイじゃないから」と断られた。
「…それにしても、随分趣のある家ですね?」
「え?‥あぁ、だって誠二さんの家は昔からあるからね」
「へぇー…」
自分から話題を振ったクセにおばちゃんの言ったことに対して特に意味もなく相槌を打っていた。
すると、おばちゃんはそんな宮沢家を眺めながら更に続けた。
「でも、陸くんも…巧くんの事で大変だったわよね?」
…………。
「…え?…たくみ‥くん?」
「あれ?巧くんって知らない?陸くんの弟さんなんだけど…」
「…‥弟?」
し、知らない…
俺‥何にも知らない…。
中学の時から一緒だったのにアイツに‥陸に弟がいたことすら知らなかった。
「あれ、お兄さん?」
「……」
「お兄さーん?聞いてる」
「…‥」
俺は、おばちゃんの言葉などまったく耳に入っておらず、遠くの方で蝉の鳴く声と共にその声も静かに通り過ぎていった。
おばちゃんはそんな俺を何度も呼び続けたのに、未だ俺の心は此処にあらずだった──
・
・
・
『それがさー、俺に妹がいて、すっげぇ生意気なんだよな』
『へぇー、瑞樹って一人っ子って感じなのに意外だな?』
『そっかぁ!?兄貴もいるぜ。もう煩いのなんのって…。いっそ一人っ子の方が良かったよ』
『そっかぁ…‥』
──当時、中学1年だった俺たちが交わした会話だった。
陸はどことなく寂しそうに笑いながらそう言っていた。
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