アイマイモコ
17
「よっ、宮沢!」
「‥……」
靴を履いてると扉が開いた。
開けたのは、俺と同じ高校で俺と異母兄弟の河野内家の瞬だった。
「てか、宮沢ケガしてんじゃん。また親父に殴られたのか?」
「関係ないだろ。退け」
「…宮沢」
宮沢 陸――。
彼に出会ってから五年が経つ。
愛人の子の陸と本妻の子の俺が仲良くできる道理なんてない。
ましてや、河野内家では、彼の存在が厄介者として扱われているのだから尚更だ。
特に母親の陸に対する扱いは尋常ではなかった。
少しでも反抗の眼差しをしようものなら、陸を地下の納戸に監禁したりした。酷い時は、寒い冬の中を食事抜きで外に追い出されるときもあった。
それは決まって、全部父親が出張で居ないときが多い。
だけど、父親が帰ってきても陸はそのことを告げ口することは一度もなかった。
――でも、ほんとは知ってる。
巧を火事で亡くして気持ちが沈んでるはずなのに、母親の罵りにも耐えて、影で一人で悔し涙を流していたのを…。
『陸…大丈夫?』
『っ、…うるさいっ。俺に構うんじゃねえよっ!』
『…‥』
陸には、きっと心の拠り所なんてなかったはずだ。
唯一あったとすれば、学校だ。
俺と同じ小学校に転校した時は周りに囲まれて楽しそうだった。
中学は、本人の希望で俺とは別々の学校になった。しかし三年になると、父親の都合で再び陸は俺と同じ中学に転入してきた。
その時の陸は、俺の知ってる孤独な陸に戻っていて、新しい中学にも馴染まずに、ただただ一人で孤立する少年だった。
高校生になると、陸は突然河野内家を飛び出していった。
父親は部下20人連れ、宮沢家から陸を強引に引っ張り出した。
『放せっ!あんな家に戻んない』
『聞き分けが悪いぞ、陸?』
パンッ
『っ、…』
『お前はもっと叩かれないと分かんないのか?』
『放しやがれぇえーっ!』
後日、家を出たいと何度も主張する陸に、まるで父親は事前に見透かしていたかのようにマンションを用意した。
河野内家に縛られた陸が、絶望感を感じた瞬間だったと思う。
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