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アイマイモコ
16


「どうだ陸。父さんと一緒に暮らす気になったか?」

「‥……」


河野内家――。

自分から連絡を取り、目的の場所へ行くと義母は苦い顔をするし、父親は笑ってるんだかよくわからない表情で口端だけ吊り上げて薄い笑みを浮かべていた。
そして、俺を見るなり暮らすことを前提に話しを進めてきた。

「お前は頭が良い。こっちに戻ってきて、将来は私の片腕になってほしいんだ」

「――戻りません」

「…は?」

「俺にはその意志がありません」

俺の肩にポンと軽く置いた父親の手を瞬時に払いのけた俺は、一緒に暮らす意志がないことをはっきりと示した。
すると父親は片眉を上げ眉間に皺を寄せて双眸を丸くさせた。

「‥…なん‥だって?」

「今日はそれを言いに来ました。俺は一緒には暮らさないっ!父親だと思えないあんたなんかとは絶対になっ!」

「…それで?お前の答えは?」

「てめえなんか地獄に堕ちろ!」

見上げる形なのが癪だが、蔑ますように父親を見上げてやった。
父親はそんな俺にまたしても薄い笑みを浮かべて言った。


「…へえー。それがお前の答えなんだよな、陸?」

「あぁ。俺は死んだら天国行く。お前なんかと同じ道をもう二度と踏み入れない。そしたら今度こそ、母さんと巧と三人で幸せに暮らすんだっ!」

だけど、俺には母さんと巧の分まで生きる義務がある。
今は精一杯生きてやる。周りに何と言われようが全然構わない。

「ははっ…ははははは」

「…何が可笑しいっ!」

「ふっ…お前もまだ青いなあ、って思ったら可笑しくてなっ」

「――っ、うっ…」

「‥……」


俺は薄笑みを浮かべる父親に気を取られて油断した。

鳩尾を突かれたのだ。
俺が言葉を失うには十分な力加減の思わぬ不意打ちだった。
痛みにうずくまる俺を見下ろす父親の視線は冷めていた。
負けじと睨み返すと、父親が冷めた視線と口調で言い放った。

「相変わらず生意気だな」

「けほっけほっ…、あ、あんたなんかに謙虚になったって仕方ないだろ。吐き気がする」

「へぇー。しばらく見ないうちに庶民に洗脳でもされたか?ずいぶん私に反抗的だな」

「っ、ガキだったからっ…‥」

「何?」

「俺がまだガキだったからっ、手足を自由に動かせなかったから、黙ってあんたの言うとおりに…する他なかっただけだ」



手を灼かせてばかりの俺はずっと篭の鳥だった。
家を出たいと言ったら、父親名義でマンションを借りることを条件に、一人暮らしを許された。
結局はあいつから逃げることが出来なかった。けど、飼い主の目を見計らって、ちゃんと空を飛ぶ練習をすることはできた。

いつか自分の逃げ道がつくれるようにと…。

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