アイマイモコ
14
「っ、陸、待ってよ!」
俺が空き教室から出てくると、程なくして秋が俺を追いかけてきて、制止をかけられたら。
止まる必要もなかったけど、息咳掛けてくるアイツを見ていたら、自然と足が止まった。
「はぁはぁ…どうして、」
「…」
「どうしてあの時、財布を盗んで陸の鞄に俺が入れたってみんなに言わなかったんだよっ!」
「‥……」
「あいつらに言う機会はいくらだってあった筈だろうっ」
財布の一件。
忘れもしない遠足の次の日の、クラスでの事件。学校中で噂になったあの出来事。
本当は俺は見ていた――
たまたま教室に忘れ物を取りに行った時、秋が女子の鞄から財布を抜き出し、俺の鞄に入れていたことを…。
同時刻に通り掛かった中等部の速水奈々も、それを目撃していた。
頭に来たからこれをネタに強請ってやろうとも思った。
けど、俺はクラスメートに、自分でやったとウソを言った。
職員会議で問題になったが、俺の普段の行いと、学校の名誉のためにこの問題は白紙になった。
俺の処分も見送られた。
「お前さ、家族のこと好きか?」
「‥…え?」
俺の問いに戸惑う秋。
「俺には、守るものがないんだ。助けてくれる人も命がけで守ろうと思うものもねえんだ」
「‥……」
「だから…俺はその時、傷つくのは一人で充分だと思った。俺が悪いんだったら、それを全部自分が背負えば良いと思った。――それが俺の試練」
「…‥試‥練?」
「――生まれてきた罰」
俺がこの世に生を受け、心から誕生を喜んでくれたのは――母さんと巧だけだった。
昨日のことのように覚えてる。
『おめでとう!陸』
『お兄ちゃんおめでとー!』
にっこりと、二人が自分のことのように喜んでくれた。
ずっとこの幸せが続きますように、と子供の俺は毎日願った。
「悔しかった…」
力なく囁くように秋は言った。
「俺には口を聞いてくれない陸が女子達には笑いながら喋ってた」
「‥…」
「初めは陸をハブらせようと思って、さり気なく陰口を流した。そしたら男子はあっさり乗っかった。でも女子は乗る気じゃなくて、寧ろ陸に優しくした」
「‥……」
「すごく嫉妬したっ」
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