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アイマイモコ
12

「ぐっ…、や…めろっ」

「俺って実はSなのかも。 そんな風に苦痛に歪む顔を見てると、もっと苛めたくなる」

「っ、うぜえ…」

「――あぁ違うかも。陸だからかも。ほら、よく言うでしょ?好きなヤツほど苛めたくなるっていう、アレだよ」

教室中には、冷たく張り詰めた空気が流れていた。
奴を罵り、睨みをきかせている俺の腕を掴んだ秋に、教室の外へと強引に引き摺られた。
必死で退き剥がそうにもヤツの力が思いのほか強く、ヤツの思い通りになる他なかった。


「わっ」

秋に投げ入れられたのは、冷たく埃っぽい床だった。
突っ伏していた顔をゆっくり上げると、そこは今は誰にも使われていない空き教室だ。

そして、

「陸、ようやく二人っきりになれたねえ?」

ガチャリと音が鳴った。
ドアの鍵を閉める音。
俺は背中でそれを感じたのと同時に、額から冷や汗を流していたことに気が付いた。

穏やそうな口調とは裏腹に、俺を映すその瞳からはヤツの感情が窺えなく、酷く据わっているようにも思えた。
一歩、二歩と近付きながら、その傍らで自分のカッターシャツのボタンを鬱陶しそうに外していくのが目に入った。

ヤバい――。
頭の中で警戒音が鳴った。


「興奮するなぁ、その顔」

「――っ!」

「俺のことを無視して、友達だったのに口もきいてくれない。どうにかなりそうだったよ。頭がおかしくなるかと思ったよ」

逃げるように後退りした。

「でもね、許してあけたんだ。 陸が好きだから」

「っ、」

「好きだよ。――瑞樹になんかに絶対渡さないよ。どんな手を使ってでも女にも、男にだってもちろん、触らせない」

逃げ場がなくなった。

「ねぇ、陸?俺を繋ぎ止めなくて良いの? 一人ぼっちは寂しくて寂しくて死んじゃうよ?」

「――っ!」

逃げ場を失った俺の背に密着をした秋が、縋るように自分の唇を俺の耳元を這わせると、荒い吐息混じりに言った。

「寂しいよお、寂しいよね?ずーっと一人でいるんだからさぁ」

「やめろっ、やめろっ!」

「泣いちゃうね?かなしいよね?でも、平気だよ?俺が一緒に居てあげるよ。守ってあげるよ」

「はぁはぁ、違うっ!寂しくなんかないっ!違う、違う違う違う違う…んだ!」

ドクンドクン、とまた怯えるように動悸が走った。
俺はしゃがみ込み、頭を抱えて秋の言ったことを覆したくて必死て首を横に振った。
そんな俺の奇行に気を良くしたのか、秋は口元を緩めた。


「ふふふ。楽しいねえ?陸。でもお仕置きだよ。もーっと苛めてあげるからね?」

「やめっ…、やめろ」

「ダーメ。俺を怒らせるとどうなるのか教えてあげる」

「止‥めろっ、」



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