アイマイモコ
11
「あーあ。可哀相な陸」
「っ、お前に哀れみを受ける筋合いはない。もうあっち行け!」
「もー強がっちゃってえ。手が震えてるよ?本当は怖いんでしょ?寂しいんでしょ? そんな陸には俺が傍にいれば、一人ぼっちじゃないよ?」
「なめんなよっ!」
いきり立った俺は握り拳を作ったその手を秋に向けて投げ出した。しかし、それは当たることはなく空を切った。
「あっぶねえ…」
「…‥」
「ずいぶん感情的だね。さっきまであんなに余裕綽々って感じだったのに〜?」
もうイヤだ。
何でこんなヤツに俺の心を見破られなきゃいけないんだ。
負けてたまるか。
・
・
『──え?』
『教えてやるって言ったんだよ、宮沢 陸のことをさ』
『…‥』
『俺と宮沢が初めて逢ったのは、小学校五年だったんだ。お互い、年も一緒だったから俺は嬉しくて声をかけたけど、アイツは特に喋ることはなかった』
『…逢った、って学校で?』
『いや、俺んち。突然俺の父親が陸と弟の巧を連れてきたんだ』
『…‥?』
『後で母親から聞かされたよ。 ──陸と巧は、父親の不倫相手の子供だったんだ、って。俺にはよく分かんなかったけど、アイツらが父親の子供だということだけは分かったよ』
『…‥不倫?』
『あぁ──』
「―…‥陸」
自分の立場を河野内家に来てすぐに、子供の俺でも悟ってしまった、分かってしまったんだ。――ここは、俺にとって居るべき場所じゃないんだ、と…。
うわごとのように毎日毎日、義理の母親が言うんだ。
『薄汚い野良猫がっ! 財産狙ってるんだろうけど、この私が居る限りそうはいかないわよ!』
『早く出て行きなさい、疫病神が!恨むんなら、欲深い淫乱なあんたの母親を恨みなさい?』
高笑いをする度に虫酸が走った。
母親は父親が結婚していた事を知らなかった。騙されていたのは、母さんの方なんだ。
俺は悔しくて、弟の居ないところで涙をぼろぼろ流した。けど、そんな辛さだって涙だって、結局は誰にも分かってもらうことはなかった。
どうして俺たちだけがこんな目に遭わなきゃいけないのかと、思わなかった日はない。
「――…てぇっ、」
「俺を見くびるなよ、高野。お前ごときなんかに、俺は潰されたりはしないっ!絶対!」
嘲笑う秋の手を振り払った陸。
不意打ちだったのか、秋は陸に叩かれた手の痛さに顔を歪めた。しかししばらくするとその手を優しくさすりながら目を弓なりに細くして、陸に冷たく微笑んだ。
「痛いじゃん、陸。 しかも、お前ごときなんか、ねぇ…?その割にはずいぶん必死だよね?本当は怖いでしょ?」
「っ、…」
「いっそのこと、もっと陸を苛めちゃおっかなあ?」
「…」
「ねぇ、陸?」
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