ブラザーに愛をこめて
20
俺の頬がズキズキと痛み始めてきた。俺は痛む左頬を自分の左手で押さえていた。
「…やっぱり、兄貴は最低だ!」
「…翔太、俺はお前が…‥」
「最低だ!!」
俺は夜遅いと言うことも忘れて、兄貴に怒鳴ると奥歯を噛み締めて自分の部屋へと走っていったのだ。残された長谷川さん、そして、右手を左手で握りしめていた兄貴は立ち尽くしていた。
「…‥しょ‥た」
「…はぁー‥園田!お前、翔太くん殴ってどうするんだよ?」
「そんなつもりはなかったんだ。…けど翔太が、俺をキライだって言った。俺が一番キライって…言ったんだ」
「…‥んー‥翔太クンの口の悪さも考えものだなぁ」
翔太クンは、きっと園田の弱さを知らないんだと思う。今だって園田は翔太クンを叩いた事をすごく後悔している筈だ。
園田はすっかり落ち込んでしまい、座り込んで頭をガクンと弱々しく垂れ下げてしまった。
だがそれに伴い、アイツがキレると、手が付けられなくなるほど半端なく恐ろしいのだ。
「いってぇ!あのクソ兄貴めぇ、俺を本気で殴りやがってぇ!…あーあ、ほっぺ真っ赤だ」
部屋に戻ってきた俺は、鏡を覗くと案の定、頬が赤く腫れてて口元から少し血が出ていた。
消毒しようにも触れるだけでズキズキと痛むし。
「遅くなったのは悪かったけど、何も殴ることねぇじゃん!…アイツ、最低だよ!」
──コンコン
「……むっ」
俺が文句をたれながら頬に湿布を付けてると、俺の部屋のドアがノックされた。しかし、この家には長谷川さんかクソ兄貴しかいない。そのどっちかだと言うのは分かりきった事だ。
けど悪いが、今は兄貴はおろか、長谷川さんの顔さえも見たくないんだ!胸くそ悪い。
『ねぇ翔太クーン?お願い、ここ開けてくれるかな?』
「今はほっといて下さい!」
『でもさぁ、ちょーっとだけ話し合い出来ないかな?』
「だから!お断りします!」
非常に気の毒だが、長谷川さんは完全に巻き添えくらってるだけだとは分かっているんだけど、今は顔を合わせても、余計な事を言っちゃいそうだから、正直無理だ。
しかし、俺の断りが効いたのかドアの前が静かになった。
(…ん?…やっと諦めて部屋に戻ったのかな?)
俺は椅子から立ち上がり、そっと抜き足でドアに近づいた……
──ガンっ
「……っ、うわ」
しかし近付いた途端、ドアから物凄い音がした。しまいには、ドアノブまでもガチャガチャとやってきたのだ。恐らく今の音は俺の部屋のドアを蹴飛ばした音だ。
しかし今のはさすがに……
「ビビったぁ!」
『おい翔太、てめぇ出てきやがれ!おら!おら!おら!」
「…げ!」
そう言って何度もドアを蹴飛ばしてくる。犯人はやっぱりというか当然、兄貴だった。
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