ブラザーに愛をこめて
14
「そっかぁ。彼氏が大学2年って事は、奈緒と1コ違いか!」
「…そう。翔太くんも見たことあると思うよ。武藤 司って言うんだけど。 彼もここの中学・高校の卒業生なんだ」
「……え、武藤先輩!?その人なら知ってるよ!その先輩、当時中等部でも人気があったから!」
周りの女子がよく騒いでた。
その会話の中で一番覚えてるのは、かなり優秀な人でその頃からデザイナーになりたいと言っていたらしい武藤先輩は、美術の成績もかなり良かったと噂されてた。
「あぁ!格好いいよな?武藤先輩って!あぁそっか、じゃあ奈緒は大学で先輩と仲良くなって付き合い始めたんだな?」
「…‥」
俺がそう言うと奈緒は目を伏せて、黙り込んでしまった。
「…?…奈緒?どうした」
「…翔太くん‥ごめんね?」
「…‥え?…あぁ!俺の事!?き、気にするなよ!」
「そうじゃなくて!……それ、違うの!!」
何を言おうとしてるのかわからないけど、奈緒はすごく辛そうな顔をしていて、泣きそうだ。
でも、泣くのをかろうじて我慢していると言った感じだ。
俺は振られた時にも、この光景を見たような気がする。
「ごめんね。ホントは、別れた時に言うべきだったのに…‥」
「…‥え?」
──別れた時って…なんだよ?
「…あたし‥ね、本当は翔太くんと付き合ってた頃に、高等部に入ってしばらくしてから、告白され‥たんだ」
「…‥え」
「それが武藤先輩だったの」
「っ!」
…‥そんな話し、始めて聞いた。でも、今の奈緒の話し方だと他にもなにかあったような言い方だった。
「…は、初めは、先輩に断ったの。‥けど断ってから、私の方が少しずつ彼の事を気になり始めちゃったの」
「…‥」
「そんな優柔不断な気持ちで武藤先輩と翔太くんの間をフラフラしてたら、園田先輩に会ったの」
…‥兄貴??
「園田先輩は、私が告白されてたのをたまたま見てたの。それで迷っていたのも気付いてた」
そこまで奈緒が言うと、俺は苛立ちを少し感じた。
「…‥っ、どうして俺に言ってくれなかったんだよ!」
「だって!武藤先輩に抱いたこの気持ちが、気のせいだって思いたかったの!」
つまり奈緒は、あの頃、俺の事も好きだったけど、武藤先輩の方にも気持ちが揺れてたと言うことなのか‥?
「だけど翔太くんのお兄さんに言われちゃった。『中途半端な気持ちで弟と付き合うな』って。『自分に正直になれ』って…‥」
…じゃ‥じゃあ…
「……じゃあ、兄貴と付き合ってたって言う噂は、何?」
「あれは‥お兄さんと何度か話してるのを見て、みんなが勘違いしたんだと思う…」
「……‥」
俺は愕然とした。
じゃ、じゃあ‥ずっと兄貴に奈緒を取られたって思っていた俺の気持ちは一体何だったんだよ!?
…‥兄貴も、奈緒も。
俺に一言も弁解してくれなかったじゃないか!
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