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ブラザーに愛をこめて
10

あの約束から、来週と言っていた日があっという間に来てしまった。
まあ時間を戻せ、と言ったところでそんな願いを誰が叶えてくれるんだよと半ば強引に自己完結をしてみたが、端から見たら見苦しいの何者でもない。
仕方なしに兄貴と待ち合わせをする最寄り駅に足を運ぶことにした。

ちなみに兄貴は午前中バイトなので直で来ると言っていた。

電車の中はさすが休日ということもあって家族連れやカップルが多い。その中でも人目も気にせずイチャついてるカップルが目立った。
彼女の肩を抱く彼氏が耳元で好きだよと囁いて、それを彼女が私もだよ、と彼氏の腰に腕を絡ませる。
けど、なんだかその光景がとても他人事は思えず直視出来なくなり視線を逸らした。

『好きだ…』


嫌でもこびりついたあの言葉。
吊革に掴まりながらため息を洩らした。
言うまでもなく、自分がその言葉に少なからず動揺していることを自覚しているからだ。
俺…最低かも……。
動揺ってなんだよ、って話だよ!
兄貴の言うことを鵜呑みしてはダメだ。

いつか離れる時が来る。
俺はそれまで耐えなければならない。
お互いガキじゃないんだ。何が良くて何が悪いかの分別くらいはつけられる年だ。
俺には俺の人生がある。
そして兄貴にも兄貴の人生がある。
それなのにここで足踏みをしてしまったら、引き返せないし一生苦労するのは目に見えている。
それが現実だ。

けど…じゃあ、このもやもやした感覚はどうしたらいいんだろう。触れただけで身動きが出来なくなっちゃうこの手はどうなるんだろ。
その答えを出すのが怖い。


「翔太」

「…え?」

目の前に兄貴が立っていた。

「俺の方が少し早かったな。つっても待ち合わせにはまだ早いんだけどな」

「……‥」

「どうした?」

「あ、いや……‥」


罰が悪くなり俯いた。


──すると、視線を逸らした俺の……

一瞬だけ……

一瞬だけ、唇を撫でた兄貴が言った。


「そんな顔してると、キス…するぞ」




ーーートクン



「……………」

「ん?俺の顔に何か付いてるか?」

「…だっ、だって今っ、」

「ん?」

「っ、な…何でもない!」

「そう」

試されているのだろうか。
余裕に満ちた表情で笑顔になる兄貴は、時折こちらを見ては唇を撫でて俺を挑発してるようにも思えた。考えてみれば、兄貴の恋愛対象は自分であるのだから誘惑されてると言われればそんな気もしないでもないあの仕草。




−−そして、俺は流されてしまいそうになる。




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