ブラザーに愛をこめて
09
結局数時間家にいたアキナは、DVD鑑賞が終わると帰っていき、再び俺は兄貴と二人きりになってしまった。
何となく居心地が悪くて自分の部屋に逃げ込もうとすれば兄貴に呼び止められてしまい、逃げることも出来なくなってしまった。
まぁ最も、兄貴が二人きりのチャンスを見逃してくれるはずもないので、半分諦めにも近いものがあったけど。
「何だよ」
「…ん‥」
「さっきから何だよ!兄貴が人のこと呼びつけたんだろ」
「……‥」
というかなんで何も話さない?それとも、これから言うことに裏があるのか。
だからそんなに躊躇っているとしか思えん。
どうでも良いが早く話してほしい…。じゃないとこっちまで緊張しちゃって仕方ない。
それに俺だって暇じゃないんだぞ!来年は受験があるから勉強しなきゃいけないし、それに…‥、
「好きだ」
「…っ、」
遮るなよ。
し、しかも…‥
好きだ、ってあんた…‥。
「し、知ってるし…」
「ああ」
「‥………」
なんか、こういうこそばゆいのは苦手だ。
相変わらずあまりにもストレート過ぎる兄貴に顔を逸らしながら視線だけを向けてみた。
嬉しそうな兄貴とばっちり目が合ってしまった。
あー見るんじゃなかった。
「その内、また出掛けよう」
「…え?」
「今度は誰にも邪魔されない所で2人っきりで!」
「……‥っ、なっ、」
「デートしような」
「…弟にデートって…お前そういうことは、っ!」
「デートだ」
あくまでもデートだと言い張る兄貴に口許が引きつっていたが、それを押しのけるような達者な口技はなかったので目をつぶってやった。
感謝しろよコノヤロウ−!
「寿司なら行ってやる」
「…バカたれ、少しは加減しろ」
「天ぷら」
「お前はおやじか。もう一声」
「ファミレス」
「了解。来週空けとけよ」
こうして兄貴のペースにまたしても流されてしまったわけだが、それを今更否定することはなかった。
そんな受け身の自分が愚かだと、机の角に頭を打ちつけたい気分だったが、それはあくまで言葉の文というやつだ。痛いし。
もし本当に打ち付けてるやつがいれば是非お会いしたいものだ。そしたら土下座をしても良いぞ。
俺がそんなことを思案しているともつゆ知らず、黙っていたことを肯定の意だと都合よく解釈すると機嫌よく部屋に戻って行った。
なんつーか…本当に単純。
いやまじで…。
「ふっ…‥‥っ、」
俺はふと無意識に綻びそうになった頬に気づき、そんな頬を軽く叩いて考えるのを止めた。
兄貴に見られなかったのが幸いだが、自分の顔が熱くなるのを感じてどうしたら良いか分からなくなってしまった。
あの修学旅行前に拭いきれなかった妙な感情がここで再び根付こうとしていたのだ。
いや…‥あり得ない!無理!
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