ブラザーに愛をこめて
07
「おかえり〜」
「っ、…」
うげっ…。
目の前にいる男を見て、思わず漏れそうになった本音。
帰るなり、リビングに行くと兄貴よりも先にアキナが手を振って俺を迎えてくれた。
「こんにちは。今日もおじゃましてまーす!」
「こ、こんちは…」
そう、アキナの言葉通り、彼は連日家に顔を出しているのだ。
今日で4日目だ。
「今日も怜治君借りてるよ」
「…‥は、はぁ」
「おぉ、翔太おかえり」
「‥…っ」
今頃気づいたんかい!
いつもだったら一目散に気づくくせに、DVDのセットに夢中だった兄貴は、俺が帰ってきたことにも気付いてなかった。
どうやら兄貴は部屋に招かずリビングでDVD鑑賞をするらしい。
ここにいても仕方ないので、俺は一度置いていた鞄を持ち部屋へ行くことにした。
「あ、翔太くんもどう?」
「…へ?」
「エロDVD。一緒に見ない?」
「‥…っ、け、結構です!」
バカバカしいっ…。
そう思いながら、兄貴とアキナを置いて自分の部屋へ行った。
◇◆◇
「あはははははっ!やっぱり高校生は粋がってるけど、からかうと面白いなーっ!あー笑いが止まんない!あはははは!」
「‥……。ふーん」
「んー、なーに?怜治君、どうしたの? 翔太くんをおもちゃにしたから怒ってるの?」
「別に…」
「…じゃあ!自分の特権を奪われたから面白くないとか?」
「……‥、」
「図星か。…ったく怜治君って、相変わらずヤキモチ妬きだね〜?おまけに独占欲強すぎ。そんなにやきもきしなくても翔太くんを取って食いはしないよ〜」
「………‥っ、」
分かっている。
けど…好きなやつが他の人と楽しそうにしてれば面白くない。翔太が自分以外の人と話してると思うと、視線を奪いたくなる。
どす黒い感情が俺の頭をぐちゃぐちゃに掻き乱す。
考えただけで涙が出そうだ。
こんな愚かな自分にな…。
「ふっ。ヤキモチ妬きな怜治君も可愛いね…」
「か、からかわないで下さい!」
「守ってあげたくなっちゃうよ。弱くて繊細な怜治君をね…」
「…‥」
弱い。
その言葉を聞いて、昔の自分の姿を脳裏に掠めた。
そう、今よりもずっと女顔だった中学生の頃の自分を……。
人の身体をおもちゃのように弄んで、強引に繋げようとする醜く卑しい姿。嘲笑う姿が滑稽で気味が悪かった。
そんな奴らの下で俺は…俺は…
「怜治君」
「…っ!」
「大丈夫だよ。君はそんなに不安そうな顔する事無いよ。それに翔太くんは知らないんだから」
「……‥」
翔太…。
その名を聞いた途端、急に不安だった気持ちが落ちついた。
そして、二階にいる翔太を無性に恋しく思ってしまった。
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