ブラザーに愛をこめて
02
「翔太、こっちだ」
「っ、…」
喫茶店に入ると店員さんに声を掛けられる前に、先に来ていたのであろう待ち人が俺に向けて手を軽く振っていた。
俺はぎくり、とするとすぐに平静を装いそっちに向かう。
「わりぃ。掃除‥だった」
「別に。俺も今来たとこだし」
「‥…そ、そう」
待ち人とは、兄貴だった。
「‥………」
「そわそわし過ぎ」
「なっ、…」
向かい合う形が、今更ながら落ち着かなく店員さんが置いた水を即座に飲んでいた。
それを見た兄貴が噴き出した。
「ぶっ、のどが渇くほど俺と二人で居るのが緊張すんのか」
「…っ、うるせ!ていうか、なんで喫茶店なんだよ!」
「…はぁ。よく言うぜ。家だとお前まとも口も利かねーくせに…。外だったら少しは翔太も落ち着いて話が出来ると思って気ぃ利かせて、メールしたんだろ」
確かに。
避けるな、という約束は守ってこれまで通り…いや、なんとか兄貴と話しはしているが、どうにもこうにも落ち着かない上ぎこちなかった。
そんな俺にメールが着たのは、昼休みになる少し前だった。
“今日の放課後、喫茶店の華で待ってる”
メールにはそう記してあった。
「だからって急すぎんだよ!ダチと帰るのキャンセルして来てやったんだからな!」
「へぇー…‥」
「…な、なんだよ」
「友達より、俺との約束を選んでくれたんだ?ふぅーん」
「っ、」
ポジティブとは、まさにこいつのことを指すんだな。
友達より何だって?あ?
こんっにゃろー。下手に出てれば図に乗りやがって!
「勘違いしてんじゃねーよ!しかも何だよそのにやけ顔は。てめぇはホントにお手軽だな!」
「まぁな」
「っ、」
「愛してやまない弟が目の前にいるのににやけるだろ?普通」
「………‥」
こ、こいつっ…。
絶対言うぞ。マジで言うぞ。
言うなよ、言うな……
「翔太、好きだ」
ひぇー!言いやがった!
白昼堂々、こんな人が大勢いる中でマジで言いやがった。
このピンク色の甘い雰囲気に絶えられず、自分の鞄と兄貴の腕を取ると、一刻も早く俺はその喫茶店を後にした。
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