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ブラザーに愛をこめて
01

ただ、応えるだけ。
決して自分の気持ちを言うことはない。ただ応えるだけ。
そんなの卑怯だけど、取り敢えず今はこのままが良い。
近すぎる距離は自分が傷つくし相手も傷つける。

――じゃあ果たして、偽りの自分を演じたら誰も不幸にならないのだろうか?

否、そんな保証はない。









「おーい翔太〜!上着をロッカー室に忘れてたぞー」

「あ、わりぃ。多分体育の時間に忘れたんだと思う」

「ほらよ」

「さんきゅ」


辺りはすっかり上着がないと肌寒くなる季節となっていた。
友人から渡されるまでセーター姿だった俺は、上着を受け取るとソレに黙って袖を通した。マフラーをするまでいかなくとも、最近上着を着ていないとどうにもこうにも震えが止まらない。

「ったく…。もうすぐ中間だっつーのに上着忘れるなんて随分余裕だよな? そんなんで今回も10番内を独占できるのか?翔太」

「任せろ!今回は5番内だ!」

「すっげえー!まじかよ!」

「かかって来い」

あの修学旅行の一件以来、一緒に弁当を食うようになった、ヘタレの渡辺。クラス委員の藤岡。血の気の熱い広瀬。
それまでも話したりはしていたが、弁当の時間になるとそれぞれの友人の所へと行っていたのだが、あの一件から何か通ずるものがあったらしく、広瀬に誘われてから今に至るというわけだ。

話してみてわかったのだが、意外とみんなと話しが合う。

「俺、兄貴とまともに口なんか聞いてねーよ」

「俺も弟と兄貴いるけど、特に話すことねーし。たまに口聞いても、チャンネル争い、電話にどっちが出るかで揉めてばっかだし」

「俺もケンカばっかだよ」

「‥………」

みんな意外と自分に似たり寄ったりだ。そのことに安堵のため息が漏れたのは言うまでもない。
少し複雑だけどな。

「あっ翔太〜。今日放課後一緒に帰らない?」

「え…あぁ悪い。今日は用があるから帰れないんだ…」

「そっか!」

「‥………」


渡辺は納得したようで、すぐさま隣にいた広瀬に声を掛けたが、どうやら彼女と帰るらしくこちらも玉砕したようだ。
哀れな渡辺…。どんまい!

心の中でそう唱え苦笑いを浮かべながら、渡辺を見送った。

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あきゅろす。
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