ブラザーに愛をこめて
19
――って。
「…‥交通安全って車運転する人が持ってるもんじゃねえの?」
「いいじゃねえか。堅いこと言うな。安全に超したことはないだろ?気を付けて行ってこい」
「…‥っ、」
「…翔太?」
バッカじゃねえの?
どうしてだよ?何でお前っていっつもそうなんだよ。
俺、お前の見送りがないだけでこんなに腹立たしかったのに、そんな器の小さな俺なんかのために、朝早くから息切らせてお守りを買いに行くなんて……。
「…ごめんっ」
「翔太…?」
「ごめん、兄貴っ…、」
弟の俺に恋愛感情を抱かせて。
たくさん傷つけて。
きっと悔しかったんだろ?
「――ありがとうの方が良い」
「え…?」
「ごめんって、悪いことした時に言う言葉だろ?だったら、同じ言われるなら、ありがとうの方が俺は嬉しいな」
「……‥」
「な?」
そういえば、いつから兄貴はこんなに優しくなったんだろうか。
兄貴は俺の頬を優しく撫でた。
感触を確かめるように何度も何度も触れてくる手は温かった。
「5日も会えないんだな」
「い、一生の別れじゃあるまいし大袈裟なんだよ。兄貴は!」
「‥…だな?でも寂しいのは本当のことだ。お前といない時間なんて考えられないや」
「っ!」
こいつは――!
おくびもなく、よくそんなこっ恥ずかしいことが言えるな!
「早く帰って来いよ!」
「へいへい。気が向いたらな」
「寄り道すんなよ」
「気が向いたらな」
このやり取りがむず痒くて、ついぶっきらぼうになってしまった。
しかし当の兄貴はといえば、不機嫌どころか目を細めて優しく微笑んでいた。その雰囲気がますますこっ恥ずかしくて目を逸らした。
そして今度こそ出発をしようと兄貴に背を向けると、
「行ってらっしゃい」
「――っ!」
不意打ちだった。
そして、顔中が熱いのを感じた。
だけど兄貴の思うつぼになるのが癪だった俺は、俯いてた顔を上げ、兄貴に視線を向けて言った。
「ありがとう」
「…‥」
「行ってくる。兄貴も俺が居ないからって泣くなよ!」
「泣くかよ」
苦笑いを浮かべる兄貴に、少しだけ勝ち誇った気分の俺。
ちょっと優越感。
こうして俺は、無事に北海道へと旅立ったのであった。
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