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ブラザーに愛をこめて
18


「ピザうまかったぁ〜」

「俺は胃がもたれた…」

「もたれたって…。20歳のクセに言うことがオヤジくせぇ…」

「…うるせ」

いやマジで。
少し前までそんなセリフ口にもしなかったくせに…‥。
男前が台無しだな。


「まぁでも、20歳だって言えるのも今週で最後だ。来週で21だ」

「…‥え?」

「俺だよ。来週誕生日だからさ。お前は修学旅行中だろ?」

「……‥」


――…忘れてた。

9月18日は兄貴の誕生日だ。

あっ…、と小さく声を洩らすと、案の定といわんばかりに「忘れてただろ?」と兄貴が意地悪そうな顔でにやけてきた。
また兄貴を傷つけたんじゃないだろうか、と内心ヒヤヒヤしたのも取り越し苦労だったみたいだ。


「あーあ、残念」

「何が?」

「お前と過ごせなくて!」

「っ!…な、なに言ってんだよ」

軽く頬杖をつきながら、可笑しそうに目をうっすら細くさせる兄貴に茶化されたのがなんとなく癪で、俺はそっぽを向いた。

「ぶっ。冗談だよ」

「‥…」

「お前が困るようなことは言わねえから安心しろよ」

「…っ、」

また傷つけちゃった‥か…?


「お前は、せっかくの修学旅行を龍たちと楽しんで来いよ」

「っ、」

そっか‥。
兄貴は龍とのこと知らないんだ。
だよな?俺言ってねーし。

隠しごとがまた増えた。





 ・
 ・
 ・



「あ、あっ、あっい…あーいーうーえーおーっ!」

うっしゃーっ!完璧。
今日も1日、平常心で…。


「おはよ、母さん!」

「あら、おはよう。 あれ?何で学ラン着て…‥あ、そっかぁ〜今日から修学旅行か」

「ああ」

行き先は北海道。
そのため夏服ではなく、修学旅行中は学ランを着るのだ。
久々に袖を通す学ランはクリーニングに出してるだけあってパリッとしていて格好がつく。

「――あれ、兄貴は?」

「え?まだ寝てるんじゃない」

「…え?…そ、そう…」

「何か用事?」

「べ、別に…」

決して自惚れてるわけではないが、兄貴のことだからてっきりもう起きてるのかと思っていた。
ったく何だよ。人がせっかくからかってくるお前を負かす言葉を考えたというのにっ…。
なんかすげえ腹が立つ。

「ご飯食べないと遅れるよ」

「あ、あーごめん!」



結局、飯を終えても兄貴は部屋から出てくることはなかった。
腹が立ったので荷物を取りに自分部屋に行ったあと、俺は兄貴の部屋を通り過ぎる時にいつも以上に強めに足踏みをし歩を進めてみたけど反応はなかった。

くそっ。なんか腹が立つっ。
なんだよっ!5日も家を空ける弟さまを無視してお前は暢気に居眠りかよ。あーあそうですか。
いいさ。帰ってきても、てめえとは口聞いてやんねえんだ。
けっ、ざまーみろ。

俺は兄貴への罵倒を内心に考えながら玄関の扉を開いた。



「翔太――!」


その声に肩がぴくっと跳ねた。


「はぁはぁ、はぁー‥あーよかった。間に合ったみたいだ」

「っ!…あ、兄貴!?」

自室でまだ寝ているはずの兄貴がなぜか外から帰ってきた。しかも息を切らしてる。
そして、俺の姿を見るなり安堵に顔を緩ませたのが分かった。

「お前もう行っちゃったんじゃないかと思ってヒヤヒヤした」

「え…つか、寝てたんじゃ…」

「はい。お前にこれを買いに行ってたら遅くなったんだ」

「…‥っ、」


――交通安全

そっと兄貴に渡されたのは、そう記してあった御守りだった。

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