ブラザーに愛をこめて
17
「兄貴」
兄貴を見てたら、つい口走ってしまっていた。
「ごめん…」
「何がだ?」
――今までひどいこと言って。
とは言えず、友達と気まずくなってしまったことを謝罪した。
俺なりに落ち込んだ。
兄貴はそんな肩を落とす俺に柔らかく笑って言った。
「飯行くか!」
「‥…え?」
「お前腹減ってんだろ?だからそんなに憂鬱になるんだよ」
「あ、いや…」
「飯さえ食えば、いらないことで落ち込むこともねえしな。で、食うの?食わないの?」
「‥…食う」
「だったら早く準備しろ」
そう言うや否や、俺の頭にポンと置かれた手で撫でられた。
その瞬間、触れられたその頭部や顔に熱を宿したのだ。
思わず息をするのを忘れるくらい、俺はひどく動揺してしまった。
「翔太、行こっか」
「っ!」
無かった思いは、突然嵐のようにやってくるのだろうか。
そんなことってあるのだろうか。
否、あるはずないだろう。
俺は、今まで嫌いだったはずの兄貴に対してどうしようもなく危険で間違った感情を見つけてしまいそうな気がしていた。
兄貴と顔を合わせるのが怖かったのは、そんな感情が俺を邪魔していたからだ。
「翔太…?」
今なら無かったことにできる。
今ならこの手を突き放せば、元の道へと引き返せる。
それに、不安定な気持ちは時として人を弱くさせることもある。そんな時誰かに優しくされると、人は情に脆くなってしまう。
「翔太?」
「‥…え?何?」
大丈夫。
まだ引き返せる。
「ボーっとしちゃって大丈夫か?お前熱でもあるんじゃな―」
「っ、大丈夫だからっ!」
「…。そっか」
「兄貴早く行こう。腹減った」
「そうだな」
決して兄貴を突き放せなかったわけではない。
今はただ、このまま兄貴の嬉しそうに笑っていた顔を裏切りたくなかっただけ。
別に他意はなんてない。
あとが面倒くさいだけ。
ここはひとつ、穏便に事を済ませるのが一番だと思う。
「何食う?」
「寿司」
「アホか」
「……‥」
――なんて、言い訳ばかりだ。
けど仕方ないよ。
俺にできることはこれしかない。
それに心の変化なんて、きっと一時的な気の迷いなのだから。
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