ブラザーに愛をこめて
13
辺りが薄暗くなっていた。
だけど、母親が留守なのを良いことに兄貴達の騒ぎ声が聞こえる。
俺が帰ってきた時、客人の靴は10人分はあったからお菓子もそろそろ底を付いたはず。その時に兄貴が部屋から一度出てくるはずだから問いただそうと思った。
しかし、
「翔太くん?」
「‥…」
兄貴の部屋から出てきたのは意外や意外、俺の元カノだった。
「奈緒…何で、ここにいるの?」
「あ、愛子先輩の付き添い」
「えっ…愛子さんいるの!?」
「ちなみに言うと、長谷川先輩も千里先輩もいるんだ」
「‥……」
最悪だー。
何そのオールキャスト。
俺が一番会いたくない人たちばっかりじゃねえか。
苦虫を噛み潰したような顔をすると奈緒は困ったように言う。
「あ、あれ?でも翔太くん、さっきお菓子をお部屋に持ってきてくれたよね?その時に部屋の中とか見なかったの?」
「ドアまでだから見てないよ」
「‥…あ、そう‥なんだ」
途端、不機嫌になる俺に気遣うように弱々しく相槌を打つ奈緒。
しかし不意に奈緒の存在に疑問を持った俺は眉を寄せて言った。
「ところで、奈緒は部屋出てきてなんか用事だったの」
「あっ!いけない。ジュース」
「‥…ジュース?」
「うん。頼まれたから買い出しに行こうと思ってたの」
「何買うの?」
「なんかね。2リットルの炭酸ジュースを四本だって!」
「‥……はい?!」
あっけらかんと笑ってそう言う奈緒に呆然としてしまった。
2リットルって…。
なぜ怯まないんだよ。
「……自転車?」
「ううん。歩き」
「‥………」
ヤバイ。
この人絶対気付いてない。
手ぶらの今は良いけど、帰りに四本をぶら下げることを想定してない、って顔をしてる。
「…はぁー、俺も行く」
「え?大丈夫だよ〜」
「…あのさー、歩いてあんな重いの四本ぶら下げて、どうやって帰ってくるつもりなの?」
「…‥‥あ」
遅っ。今頃気付いたんかい!
てか、どう考えたって女子があんなの1人で、って。無理な話だ。
女の子らしく、口元に手を押さえている奈緒の頬は未だ恥じらいに赤くなったままだ。
「‥…行こう」
「う、うん…」
こういうとこ変わってない。
・
・
「――ありがとう」
「ん?あぁ別に。 てか、あのクソ兄貴は何やってんだよ!女子1人にこんなの持てるわけないっつーのにさ!」
「良いの良いの。おかげで翔太くんと話しが出来たし」
「…‥」
そう言うと奈緒はにっこりと優しく微笑んでいた。
久しぶりに見たその可憐な笑みは、近頃落ち着かなかった俺に安堵な気持ちをくれた。
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