ブラザーに愛をこめて
12
「ただいま…」
(あれ、誰か来てる)
帰宅すると玄関にある靴がいつもよりも溢れていた。
怪訝に片眉をあげていると、リビングからエプロンを身に付けた母さんがやってきた。
「おかえりー」
「ねぇ。これ何?」
「ああ、今お兄ちゃんの友達が来てるのよ。賑やかだろうけど、ゼミの課題をやる為だから翔ちゃん許してあげてね」
「課題、ね…」
ホントかよ。
「はいはい、わかったよ」
「――あぁ、ちょっと待って。翔ちゃん悪いんだけど、これを怜ちゃんたちに持ってってくれる」
「…はあ!?嫌だよ」
「お願ーい。お母さん、これから真理おばちゃんと出かけるの」
「飯は?」
「怜ちゃんと食べて」
「‥……」
ちなみに真理とは、母の妹。
その人の子供は俺や兄貴と同じ学校にいるくらい近所なため、子供の頃からいろいろと世話を焼いてくれた叔母。
「兄貴、開けるぞ」
てか、何で俺がこんな事を…。
仕方ないので母さんがテーブルに用意してあったお菓子を兄貴の部屋に持っていった。
ノックをすると、手が塞がっていたから片足で扉を開けた。
「おー、なんだよ翔太」
「別に。ただ、母さんが兄貴にこれ持って行けって言うから…」
「え?…あーいけねっ。おう、サンキュー翔太。今取りに行こうと思ってたんだよ」
取りに、って…こんにゃろー!
だったら早く取りに来いよ。じゃなければ、俺がてめえのとこに行かなくて済んだのによっ。
「…何だよ翔太。どうした?ヘんな顔しちゃって」
「っ!べ、別に…。じゃあ、確かに持ってったからな!」
「あぁ。ありがと」
「‥……」
はぁー…疲れた。
疲れたって、なんじゃそりゃあ。
壁に手を付いて盛大にため息を吐く俺は、内心は『おいおい、しっかりしろよ』と叫びたいとこなんだが、今の俺にはその気力すらなかった。
「あ…。母さんが買い物した肉を冷蔵庫に入れるの忘れた」
さすがにほっとくわけにはいかず、面倒だけど仕方ないので一息吐いた腰をもう一度上げてキッチンに足を向けた。
「これでよし。ったく。母さんも肉くらい冷蔵庫に入れとけよ」
一通り冷蔵庫に入れると、もう一度自室に戻るのが億劫になった俺は、リビングのソファーに体を預けることにした。
疲労が溜まってんのか足を伸ばした途端、自然と声が出ていた。
俺はおっさんかよっ。
それにしても、課題なんてホントに名ばかりだな。
上から聞こえてくるのはさっきから笑い声やら叫び声ばかりだ。
「‥…うるせ」
それから数分後、俺は耳栓をして自室に戻っていった。
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