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ブラザーに愛をこめて
10

「おかえり」

「‥…た、ただいま」

帰ってくると、誰よりも早く兄貴が玄関先にいたのだ。
兄貴に避けるな、と再び言われてから、そうしないようにしているけど、直視できない俺は少しだけ節目がちに対処した。

「か、母さんは?」

「ベランダで洗濯干してる」

「ふ、ふーん…」

日常会話さえも足踏み状態な俺は、もうどうすることもできず相槌だけを打っておいた。
何も知らない兄貴は不意に腰に手を落ち着かせ言った。

「飯は?」

「‥…え?まだだけど」

「じゃあ今作るよ」

「い、いいよ。自分でやるから」

「いいから座ってろ。…な?」


………‥。

そう言って、また無駄にカッコ良く優しい笑みをこぼす兄貴に双眸を丸く開かせた俺は思わず立ち尽くしてしまった。
だが、返答をしない俺を兄貴は不思議そうに見つめていた。

「…翔太?」

「っ、…え、あ、何?」

「ふっ…。座ってろって言ったのに聞こえなかったのか?」

「あっ、あぁ…わかったよ」

何となく、これ以上兄貴に逆らうことができなくて、俺は言われた通りリビングのソファーでご飯ができるのを待つことにした。



な、なんだったんだろ…。
兄貴の笑顔を見た瞬間、罪悪感にも似たような感情が芽生えた。
そんな感情がよくわからず、頭を捻って理由を考えようとするんだけど、思考がうまく動いてくれず断念した。
理由もわからない糸を絡めるだけの思考。そんな心情を、考えることを放棄した自分を内心では褒めてやりたい、と思った。
しかし、その傍らでは何だかそわそわと落ち着かなかった。



 ・
 ・


「ごちそーさん」

「お粗末様でした。旨かったか」

「‥…ま、まぁ」

「そっか! だったら翔太に作ったかいがあったよ」

「……‥」

ほらっ、またそうやって笑う。
前までは女の子を口説く時以外はそんな風に笑わなかったくせに、俺のことだって睨んでたくせに、やんわりと笑うなよ。
ほら、心臓がうるさいんだ。
手も震えてるんだ。

「――翔太」

「‥…っ、」

顔を上げれば、目前には兄貴が俺の高さに合わせてジッと見てきた。途端、心臓の鼓動が急速に速くなっていった。
そんな感情を隠すように、俺は平静を装ったというのに…

「な、なな…、なにっ」

上擦った。
ついでに顔が熱い。

「またここに付いてるぞ。ったく、世話のかかる弟だな」

「っ!」

俺の口元に付いた汚れを拭うのに自分の指を使った兄貴。
だけど次の瞬間、ドクン、と激しく心臓が脈を打つのと同時に俺は無意識のうちに兄貴に体当たりをして、自分の部屋へと駆け込んだのだった――。

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