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ブラザーに愛をこめて
09

「‥……」

あれ…?
そういえば俺…今サラッと奈緒の事を思い出したけど、前みたいに苦しく思わなくなった。
前は名前を出すだけでも、楽しかった頃のことを思い出してセンチメンタルになっていたのに。
はぁー…。てか俺って、なにげに意外と女々しくて痛いやつ。

でも…
これって…良いことなんだよな?





「それって大人の階段、のぼったんじゃねえの?」

「‥…へ?」

「つまり、彼女のこと吹っ切れたってことなんじゃねえの?」

「やっぱり?」

「ああ」

次の日、倉橋クンにこのことを話すや否や、迷わずそう言った。
やっぱ、そうだと思った。
ちゃっかり謙遜な態度も皆無な俺は倉橋クンに聞き返すと、否定もせずに素直に同意してくれた。
その辺りが彼の偉大さを感じる。

「Aくん良かったな?」

「Aくんって言うな!」

「じゃあBくん?」

「Bは兄貴だよっ!」

「‥……」

言ってしまってから口を両手で塞いだが時すでに遅し、と言ったところだろう。
不謹慎にも、倉橋クンは肩を震わせてるのが後ろから見ても一目瞭然で、俺はそんな倉橋クンを一睨みしてみた。

「お、俺の傷口を抉るな!」

「悪い悪い。まさかこんなに素直に言うとは思わなくて」

「っ、倉橋クンっ、こ、こんなのフェアじゃない!ずるいよ。倉橋クンの秘密も話せ!」

「…‥は?秘密?」

「そう!」

意外と意地悪な倉橋クンだ。

だけど、困ったように笑う倉橋クンが口を開いた。


「…まぁ、秘密っつーほどのことでもないけど、俺の両親離婚してて離れて暮らす時、俺と次女は父親に、長女は母親に引き取られたんだ。 だけど長女は今でも倉橋家に堂々と来るんだ」

「――…は?」

倉橋クンは突然他人の俺に家族事情を説明し始めた。
目を丸くして俺が倉橋クンに視線を向けるとふうー、と一息ついて俺に言った。

「お前、俺と姉貴の名字が違うから気にしてたんだろ?」

「…っ!」


図星だ。

姉弟の関係だと聞いたとき、一目散に倉橋と北川という違う名字に頭が行ってしまった。
それは紛れもない事実だ。
だけどよりによって倉橋クン本人に気付かれていたとは、情けなくて合わす顔もないや。


「ごめん!」

「‥…は?何が?」

「離婚の話しさせて。そんな話をさせるつもりで促したわけじゃなかったんだ」

「わかってるよ。けど、別に俺気にしてねえぜ。てか、離婚してからの方が親同士も仲良いみたいだし。それでグレて女遊びしたっつーわけでもないし、姉貴たちもグレたわけでもないし」


それでも‥…そんな結末を望んでいる子供なんていない。子供は両親の仲の良い姿ほど嬉しいことはないんだからさ。

しかし、なんだなぁ。
俺もなんだかんだ言って一時期、兄貴のことで母さんに八つ当たりしちゃったこともあったけど、やっぱり常に子供を安心させてくれる両親には感謝しないといけないな。と思った。

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