ブラザーに愛をこめて
05
兄貴の冷ややかな表情に俺の顔も思わず強張ってしまった。
俺は兄貴の機嫌を窺うように、俯いた視線を兄貴の高さに合わせてそっと向けてみた。
すると、それに気付いた兄貴が慌てて普段通りの表情に戻し、宥めるように俺の肩に優しく手をおくなり言った。
「悪い翔太。いきなり怒鳴っちゃってびっくりしたよな」
「べ、別に…」
「でも、お前がまた隠し事するから俺、急に不安になったんだ」
――隠し事?
「か、隠し事なんて、別に俺…」
「ほらっ、またそうやって突き放すような言い方する。そういうの止めろよ。 正直俺、お前にそういう風に何気なく距離置かれると結構傷つくんだよ」
「…‥」
「それとも俺また何かした?それならいくらでも謝る。だからお前もさ、頼むからそういうのやめてくれないか」
「…あ、兄貴」
「俺はお前に不安要素を出来るだけ作りたくないから」
「…っ、」
寂しがり屋らしい兄貴は、ちょっとしたことでも不安になってしまうような繊細なやつだ。
今までそんな顔、一度だって見せたことないクセに。――と兄貴にさり気なくボヤくと途端俺を抱き寄せ、お前を抱き締めることでその不安が取り除ける。――と、にやけながら言った。
横目で睨む俺のことなんて全然気にしてない様子だ。
「単純だこと」
「そうだよ。俺は翔太さえ居れば単純なんだよ」
「あっそ。ハイハイ良かったね」
「うれしいだろ?」
「はあ!?」
いつまでもにやけ顔で抱きついてくる兄貴を、呆れ顔でその目前の胸を押しのけソファーにドカリと胡座をかいた俺。
そしてさっきまで緊張していたはずの俺の心の渦が、ウソのように少しだけ落ち着いていた。
ホントに少しだけど。
「翔太、おもしれー」
「うっせえ!にやけるな」
「怒ってるのか?それとも照れてるのか?」
「有り得ねー!」
きっと、今までになかったことが次々起こったから不安定になってしまったんだろう。――と自分の中で消化することにした。
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