ブラザーに愛をこめて
18
「よっ」
「………‥」
柳田家の玄関前で龍に向けて、よっ、と手を上げてみた。けど龍の方は、俺から目を逸らして浮かない顔をしていた。
やっぱり俺の思った通りだ。
龍とは長い付き合いだ。
だから、当然龍の母親とも交流が深いため、俺を拒否したのを見かねたおばさんが部屋に閉じ篭もっていた龍を無理やり引っ張り出してくれたのだ。
「げ、元気してたか?」
俺がそう訊くも、黙って俯いてしまった龍。
俺は気の利いた言葉も浮かばず苦笑いをしながら頭を掻いた。
「あー…なぁ?夏休みの宿題はもう終わったのか?」
「8月にもなってないのに、そんなの終わるかよ」
「そっ、そっか…ごめん」
うわぁ、棘のある言い方。
龍、自覚してないんだろうな。
敢えて口にはしてないけど、きっと怒ってるんだろう。だけど自分には怒る資格がない、と頭の中でジレンマでも起こしてるといったところだろう。
舐めんなよ。
ダテに龍の親友を、五年もやってたわけじゃないんだからな。
「なぁ龍、お前さ」
「――倉橋の方が良いのか?」
「…‥は?」
「そうだよな。アイツの方が俺よりも大人だし、黙って話しも聞いてくれるしな。どーせ俺なんて役不足だしガキだし」
え?倉橋クンが、良い?
何でここで倉橋クンが出てくるんだろう。
「何言ってんだ?」
「こないだ俺見たんだ。用事あるっつって俺と別れた後、倉橋と楽しそうに喋ってたのを!」
――えっ?
「翔太、その後倉橋とどっか行ってたよな?」
「あぁ、倉橋クンんちに行ったけど、お前何でそんなこと…」
「ずっと見てたんだよっ! お前の様子が変だったから心配で追いかけたんだ。そしたらお前が倉橋と歩いてくのが見えた」
「…‥」
「へぇ、親友の俺を差し置いてまで行くほどの場所だったんだ?」
龍は冷たく笑ってそう言った。
もしくは、その表情は傷付いてるようにも思えた。
俺は言い返さなかった。
龍は、きっと自分でもこんなこと言いたくないって自覚してる。
それに、龍は悪いヤツじゃない。
だって友人がどんどん離れていく中、お前だけは俺とずっといてくれたじゃん。俺はどんと構えるお前の存在に救われたんだ。
だからもうケンカはしたくない。
「倉橋クンは、俺の中ではもう友達なんだ。向こうはそうじゃないかもしれないけどな。 初めはイヤな奴、って頭から毛嫌いしてた。でも実際話してみたらすごく優しかったんだ」
「…っ」
「あんな風に俺も誰かに出来たら良いな、て少し憧れた」
俺に大切な事を教えてくれた。
「けどな、龍。これだけは忘れないで欲しいんだ…。お前が必要ないだなんて、俺は一度も思ったことないんだ!」
「っ、」
「ごめんな龍…。お前、俺があんな態度とったから不安だったんだよな? けどな、龍。俺も不安だったんだ…」
「えっ…」
「俺、自分のことをお前に打ち明けるのが急に怖くなったんだ。もしかしたら、また呆れられて今度こそ俺に嫌気をさしたらどうしようって思ったんだ」
「翔太…」
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