ブラザーに愛をこめて
11
「お…お邪魔しまーす……。ね、ねぇ?ホントに急に押し掛けちゃって良かったの?」
「あぁ別に。俺んち誰もそういうの気にしないから」
「………‥」
俺が気にするよ……。
この家の主が良い、と言ってるにも関わらず、俺の歩く足はまるで泥棒が人んちに入るの時のような忍び足をしてしまう。
それを見て倉橋クンはまた笑う。悪かったね、どうせ臆病者だよ。何となく萎縮してしまうのは一種の癖みたいなもんだろうな。
そして気付けば、悲観的な思案を解いたのと同時に螺旋階段を上り終え、倉橋クンの部屋の前に突っ立っていた。
あれ…?
「瞬間移動っ!?」
「何か言った?」
「いや、なんでもないです!…へ、へぇー、なんか俺が思ってた通りの部屋だった」
「悪かったな、普通で…」
「いや。倉橋クンはノーマルな男子だったんだなと安堵しただけ」
「……は?」
「い、いや…こっちの話し」
俺がつい口に出してしまったのは、エロ本がなかった事。いや、あっても良いんだけどさ……。
前に見てしまった。兄貴の部屋に入った時に、無造作に置いてあったエロ本の雑誌の束。それは半端じゃなかった。
俺はデリカシーもなくそこら辺に置いた兄貴に、無条件にイラッとしたのを覚えている。
「っ、そうだ、デリカシーだ!アイツにはデリカシーがないんだ」
「……は?」
「い、いや…こっちの話し」
「へんなヤツ…、別に良いんだけどさ。――あ、ちょっと待ってろ、今飲みもん持ってくる」
と、噴き出した倉橋クン。どうでも良いけど倉橋クンって最近、いつも噴き出すよな。
まぁ、ムスッとしてた頃よりは全然良いけどね。
「夏期講習、はかどった?」
「まぁ、思ってたよりは頭に入ったかも。…つか、そうでなきゃ親が黙ってないし。園田は?」
「俺はあんまし…」
「そっか」
「今度教えてよ」
「お前の方が優秀だろ」
「ははは、そうだね!」
「そこは謙遜するとこ」
倉橋クンは喋る方には徹せず、常に俺に質問されたら応えるということを繰り返していた。
これだけで気が紛れた。
「でも倉橋クンって、学年末テスト結構良かったよね?」
「15番。6番のお前には負けるけどな」
「龍とケンカしててやることがなかったからね」
「それ、笑えない」
「……‥」
いや、笑ってくださいよ。
笑わないで欲しいとこで笑うくせに、こういう時だけ空気を読んでるだか読んでないんだか…。
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