ブラザーに愛をこめて
12
「俺、帰るよ」
「え…あぁ」
あれから何時間居たんだろう?
倉橋クンと話してる間に何となく俺の落ち込みは醒めていて、あんなに倉橋クンに話そうと思っていた気持ちも薄れていた。
ホント俺って、単純だよな。
けど、きっとまたそういう気持ちになってしまう事が、これから何回かあるかもしれない。
そう思うと不安で堪らない。
「コンビニまで送ろうか?」
「ううん平気!」
「……‥」
「…?…倉橋クン‥何?」
視線に気付き振り返れば、ジッと俺を見つめていた倉橋クン――。
「園田、携帯かして」
「……へ?」
その彼に突然そう言われて、俺は少し疑心を抱きながらも、鞄からこっそり出した携帯電話を倉橋クンに渡した。
倉橋クンは携帯電話同士をくっつけ、暫くすると「よし」と呟きながら俺の頭を、携帯電話で軽く小突いて返された。
「いつでも電話しろ」
「………‥え?」
「俺のメアド入ってるから。お前のメアドももらったけどな」
「…‥」
「今日話せなかったこととか、これからだって色々あるだろう?どうせ学校は休みに入っちゃうしな。俺でも良いんだったら愚痴くらい聞いてやるよ」
「…‥っ、」
うわぁ、やられたぁ〜!
倉橋クンって、とことん俺のツボを知り尽くしている。うっかりときめいちゃったじゃんか!
俺は嬉しくてつい、倉橋クンに満面の笑みを向けて言った。
「ありがとっ!」
「……。ちゃんと笑えるじゃん」
「ん?」
「何でもねえよ」
「そっか。じゃあ俺帰るな!長居しちゃってごめん」
「良いよ」
俺は子供みたいに手を振った。
倉橋クンが龍みたいに手を振ってくれることはなかったけど、俺は、自分の姿が見えなくなるまでさり気なく見守ってくれる倉橋クンが大好きだ。
これで本当に、俺の悩みが一気に吹っ飛んだ――
・
・
「――あ、翔ちゃんお帰り」
家に着くと、玄関の扉が自動ドアの如く勝手に開いた。顔だけ無駄に良い平凡サラリーマンの父親と、童顔な平凡専業主婦の家庭にそんな立派な物は設置されてるはずもなく、出てきたのはエコバックを所持した母さんだった。
「…ただいま」
「随分遅かったのね。今日で夏期講習終わりでしょう?」
「あぁ。友達のとこ行ってた。母さんはこれから買い物?」
「えぇそうよ。あ!ねぇ翔ちゃん?今日何食べたい?」
「え?んーそうだな……‥あっ!カレーなんか良いんじゃない」
こういう風に訊いてくる時は、大抵手を抜きたい日なんだ。
以前母親に同じ事を訊かれた時、俺が茶碗蒸しが食いたい、と答えたら、速攻で耳を塞がれた。それからは簡単なものをリクエストするようになった。
つか、訊く意味ねぇじゃん。
母さんは俺の解答に満面の笑みをした。はぁー、分かりやすい。
「分かった!…ふふふふ、やっぱり翔ちゃん達は兄弟ね?さっきお兄ちゃんに同じ事訊いたら、同じ事言ったのよ」
――はっ?
「…え、兄貴いるの!?だって今日バイトの日じゃ…‥」
「うん。でも…疲れたとかなんかで、他の子と交代したみたい」
「〜〜っ、」
「それがどうしたの?」
「い、いや…なんでもない」
「そう。じゃあ行ってくるわね」
「い、行ってらっしゃい……」
――飛んだはずだった悩みが、再び俺の中で根付いていた。
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