ブラザーに愛をこめて
10
「よっ。今学校終わったのか?」
「まぁね。倉橋クンは…‥あっ、そっか。倉橋クンは昨日夏期講習終わったんだよね?」
「あぁ、お先にな」
前回は彼女連れだった倉橋クンと会ったこのコンビニで、再びバッタリ遭遇を果たした俺。
なんつーか、このタイミングの良さは今になって考えるとものすごい事だよ、うん。前だったらこの偶然が恨めしくて仕方なかったけど、最近少しだけ倉橋クンの事が分かってからはそうは思わなくなった。
「あー羨ましい。今日メチャクチャ暑かったから、俺ホントは外に出たくなかったぁ!」
「あー、確かに。昨日少し涼しかったもんなあ」
「うん」
ホントは良いヤツだし。
「――あっ。そういえば、倉橋クンコンビニに何しに来たの?」
「……コレ」
「ん?袋?」
そう言って袋から出したのはシャーペンの芯だった。けど倉橋クンは心なしか若干不機嫌だ。
「自分の?」
「違う。姉貴に頼まれたんだよ。ったく、これだけの為に俺をダシに使うとかあり得ねえし」
「倉橋クン、姉ちゃんいるの?」
「いるいる。しかも二人」
そりゃあまた意外だ。
だって倉橋クンって、絶対に一人っ子だと思ってたから。
「二人いると華やかそうだね」
「園田、幻想抱きすぎだから。長女は俺の女遊びに生意気、とか言ってプロレス技かけるし身の回りのことはやんないし、次女は人を足で使うし、マジ最悪…」
「一緒に住んでるの?」
「あぁ次女はな、まだ大学生だし…。でも長女の方は年離れてるから、結構前に職場から近いマンションに引っ越してて今はもう家に居ないよ」
芯の入っていた袋からペットボトルを出し、それを口に含むとコンビニの縁石にドカリと座った。
倉橋クンはそのペットボトルを俺に見せると「姉貴からのお駄賃。ショボいだろ」と言ってニッと歯を出して笑った。
「へぇー。じゃあ、なかなか会えないんだね?」
「そうでもないよ。何だかんだ言い訳つけて結構帰ってくるし」
「…‥ふーん」
姉弟(きょうだい)って、普通はこんな風に自然な振る舞い方をするんだよな…。
性別は違えど、家族の事を何でも知っていて、言いたい事があればこういう風に体を張ってコミュニケーションを取ったり会話をしたりする。
「――…‥」
俺たちには、その会話すらなかった気がする……。
「……園田?」
「……‥」
「おーい、園田ぁ?」
「………」
「そーのーだっ」
「あたっ……」
自分の不安が脳裏でグルグルと疼いていると、突如倉橋クンに頭を小突かれた。
痛くないのに、条件反射でつい声に出していた俺に、彼は言った。
「俺んち来る?」
「……え」
「何か、お前が言いたそうな顔してるからさ…。ま、こっから5分かかるけどさ」
「……‥」
「来るの?来ないの?」
「おじゃまします…――」
俺は歩いて5分の所にある、倉橋クンの家に行くことにした。
だけどそれよりも何よりも、倉橋クンの呼び方が“あんた”から“お前”に変わったことに俺はジーンとした。実はあんたって呼び方はすごく他人行儀みたいで嫌だったから。
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