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ブラザーに愛をこめて
08

バタン――


「はぁはぁはぁ…」

なんだよ、あの余裕な表情は!
触りたいってなんだよ!
夕飯を終えると、颯爽と部屋へと入った。そして俺は戻るなり扉の前で呼吸を乱していたのは、兄貴の言ったあの意味深な発言に動揺したからなのだ。
ていうか、まだ足が震える。

『翔太?』

「……‥っ、」

あー、何でこういう時に限ってすぐに来るんだろうか。少しほっといてくれて欲しいのに、兄貴はそんなのお構いなしだ。
けどあーいう約束をした以上、兄貴を軽くあしらうのも何となく俺の性格上できないもので…、仕方なしに部屋の扉を開けた。

「何か用?」

「いや、用ってわけじゃないだけどさ。さっき様子変だったからどうしたのかなーと思って」

「……あぁ、別に何でもねえよ。ただちょっと夏休みだから浮かれてただけだよ」

「ホントか?」

「ハイハイ、マジですマジです!もう良いだろ?わかったら早く出て行ってよ。明日も学校朝早いんだからさー」

「あ、あぁ…」

「じゃあな」

「…‥――」



正直な話し、俺たちってなんかぎこちないよな。これって、本当に俺たちが向き合おうとしている方向なのかな。
兄貴は、俺と出掛けると嬉しそうに笑っていて、今だって俺の様子が変だ、と心配してくれた。

――でも兄弟ってこんなに、窮屈で重いんだっけ?






 ・
 ・
 ・

「――はい。今日で夏期講習は終わりです。昨日終わった人にも言ったけど、始業式まで事故のないように気をしっかり引き締めてください――では解散」


「……はぁ」

やっと夏期講習が終わった。

「お疲れ、翔太!」

「おう…龍」

「帰ろうぜ!」

「……うん」

廊下で俺の出待ちをしていた龍。
それは今朝、昼飯を食おうと約束をしていたからだ。

「あぁぁー!やっと終わったな」

「…そうだな」

「やっぱさー、夏休みって遊ぶための休みだからさ、勉強なんて俺の性には合わねえよ。翔太もそう思わない?」

「……お前なー‥」

そう言って龍は肩を回しながら腰痛の素振りを見せた。
龍お前なぁー、人が兄貴の事で悩んでるっていうのに、お前若いクセして爺クセェ事すんなよ。

「‥…はぁー」

「ん?…翔太どうした?なんかいつもの元気なくない?」

「いや、それがさ……‥」



――…ダメだ。

あんなに兄貴のことで大騒ぎしちゃったのに、兄貴の話しなんて今の龍にはできないや。
それに何を言われるか分かんないし、こんな話し迷惑だよな…。

うん。今の事は忘れよう…。


「それがさー、何?」

「……え?」

「続きだよ〜!翔太、今何か言いかけてなかった?」

「………‥」

俺は喉まで出しかけた言葉をゴクリと飲み込むと、

「……な、何でもない」

「えぇーっ!?」

「ごめん。何言おうとしたのか忘れちゃったんだ」

「おうおう。このぉ翔太のドジっこめぇ〜!」

「あはははは、煩いなあ!それより早く飯食おうぜ?腹減った」

「そうだな」

「……‥」



笑って、そう誤魔化した。

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