ブラザーに愛をこめて
05
「だったらさ…、」
「…は?」
先に口を開いたのは実明の方からだった。
「――だったらさ、あんたが蒔いた種だって言うならさ、それを自分で蹴りつけるのが、筋ってもんじゃないの?」
「実明…」
「やーっぱり、あんたなんかよりも翔太くんの方が大人だわ」
「…‥」
「怜治!あんたはね、ずーっと翔太くんの優しさに甘えてたのよ。こうすれば分かってくれる、あーすれば大丈夫、ってあんたがそうやってずっと受け身でいたからダメなのよ」
「……‥」
「翔太くんが鈍いんじゃない。 それはあんたが意気地なしで、受け身で、何の行動もしなかっただけ!…怜治、それはあんたも分かってるわよね?」
「…‥」
意気地なしで、翔太にどう声を掛ければ良いのか分からなくて、頭の中が混乱して、迫ってくるのは焦燥感ばかりだった俺は、アイツは何も分かってくれないと翔太に八つ当たりをしたんだ。
お前は鈍いんだと…――。
結局、俺はガキだったんだ。
まるで子供ように駄々をこねて、都合が悪いと人のせいにして。
けど翔太は、俺の性格を知っていたかのように、俺が突き放すと突き返し、手を差し伸べると戸惑いながらも最後にはきちんと手を貸してくれた。
「…‥」
「ねぇ怜治?翔太くんが怜治を嫌いじゃないって証明するんなら、あんたが渡したプレゼントを捨てないのが、何よりもの証拠だと思わない?」
「…え、プレゼント?」
「そう」
「…――」
『おう、ありがとう兄貴!俺、大事にするよ!』
『…あぁ‥ま、まぁな。それに俺、あんまりこういうの持ってなかったし…! 兄貴ってさ、こういうの選ぶのだけは得意だよな?』
「……‥」
「翔太くんはさ、口では大嫌いだって言ったけど、本当は初めからあんたと向き合おうとしてたんじゃないのかな」
「向き合おう…と?」
「うん。だけど、キッカケが掴めなくて中々素直になれなかったんじゃないのかな?」
「…‥」
素直になれないから?
俺はそれを聞いた瞬間、嬉しさと興奮に、俺の身体の全神経がウズウズとして鳥肌がたった。――俺と翔太の溝を埋めるための希望が少し見えたからだ。
「キッカケ、か…」
「そう。今まで出来なかった兄貴らしいことをあんたがやるの」
「……‥」
そしたらアイツは、翔太は泣いて喜んでくれるかな。
大好き、とか言うかな。
見たいなぁ、翔太の喜んだ顔。
可愛いんだろうな。
そっか、俺がまだ兄貴らしい事をしてないから、だから優しくしても翔太はどことなく戸惑った表情をするんだな。
頭を撫でても逃げるし、俺が優しく視線を向けてもすぐ逸らす。
「…そっか」
「ん?怜治何か言った?」
「サンキュー実明!お前に良いこと教えてもらったよ!」
「ねぇ怜治、あんた勘違いしちゃダメよ。あくまでも兄らしいことだからね?」
「分かってるよ!」
「…そ、それなら良いけど‥」
翔太…。もうみんなで責めたりしないから、そんなに怖がらなくて良いんだぞ。これからは俺がずっと傍にいてあげる。
だって、俺のせいで一人で傷ついて寂しかったんだもんな?兄貴が泣かしちゃダメだよな?
翔太のその寂しさ、これからは俺がたくさん埋めてあげる――。
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