ブラザーに愛をこめて
06
「ただいま」
「おかえり〜!あれ?翔ちゃん、怜ちゃんと出掛けたんじゃなかったっけ?」
リビングに入ると母さんが夕飯の支度をしていた。
兄貴の姿がないことを母さんが口にすると、途端俺はググッと眉間に皺を寄せ、返した。
「出掛けたけどアイツが胸くそ悪い事言うから帰ってきた」
「あーあ。また怜ちゃんとケンカしちゃったのね?」
「けっ!アイツが悪いんだよ。 あ、母さん。兄貴が帰ってきても俺はいないって言って」
そう言い残し部屋へ行った。
・
・
「ただいま」
「おかえり〜!」
「お袋。翔太は?」
「いない、って」
「…………」
“いない”って母さんには言伝をしているのに、兄貴は必ず二階に上がってくると、
コンコン
『翔太?』
「…………」
兄貴は自分の部屋に行く前に俺の部屋に立ち寄るのだ。
そしてドア越しで話し始める。
『翔太?ただいま』
「何だよ。つーか、母さんがいないって言ったはずだけど?」
『あぁ。でも実際は居るじゃん』
「………」
胸くそ悪い。
『そうやってお前もすぐ返事してくれちゃうしな。可愛いな』
「っ、……」
コイツ、また可愛いって言った。
「つ、つーか、てめぇが要らねえこと言わなきゃ俺だって帰んないし、こんな回りくどい事なんかしねえよ!」
「………」
「さっさと部屋に戻れよ!」
「………」
こう言うと、次に兄貴はだいたいドアを蹴飛ばして怒声を上げる。少し恐いんだけど兄貴に屈するのはなんたって俺のプライドが許さないからな。
さぁ、来るなら来い!
『――ごめんね?』
「………は?」
『そうだよな?怒るの当然だよな?…でも、焦るお前が可愛くてからかい過ぎた。だから俺は反省してるんだよ』
「……あ、兄貴?」
『だからごめんね?翔太』
「…………」
『今はお前もまだ落ち着かないだろうから部屋に戻るよ。――だけど夕飯時はちゃんと顔見せろよ、お袋が心配するからさ。じゃ』
「………」
無常にも、隣で兄貴の部屋の扉がパタリと閉まる音がした。
それに安堵し肩を落とすが…、
え?今のは…何?
兄貴が俺に謝ったのか?
兄貴が…?
あの兄貴が…!?
…………。
「超こえぇぇぇぇーっ!!」
な、なんで?俺何かした?
何かしたっつーなら結構言いたいことは言ったつもりだけど、けどそれは兄貴が悪いわけで、俺には罪はないし……。
しかもごめんね、て…。
それはある意味、怒声上げられるよりもよっぽど堪える。
夕飯パスするか?
い、いや、パスしたら絶対兄貴俺んとこ来るし。
あぁっ!どうしよう!
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