ブラザーに愛をこめて
02
「翔太、こっちとこっちのシャツどっちがいいかな?」
「別にどっちだっていいだろ」
「…‥」
「だったらさ、こっちが良いんじゃないのか?こっちの方が生地だって柔らかそうだし…」
「そっか!じゃあこっちにする。…あぁやっぱり、俺と翔太は相性がピッタリだな?」
「……」
いや、単に兄貴がそっちのシャツをよく愛用してたのを知ってただけのことだ。それを兄貴は相性抜群、だとか自信満々に絶賛しているのがとても痛い。
兄貴も夏休みに入った。
夏休みに入ってから、兄貴はやたら俺に構うようになった。
今みたいに俺を引き止めては洋服や靴のチョイスをさせられる。正直、服のセンスはあまりないから止めてほしいけど、兄貴が嬉しそうな顔をするもんだから、気持ちを知ってるだけに強く出れない。
はぁ、しんどい…
「翔太、行くぞ」
「…‥あ、あぁ」
――そんな兄貴と、これから出掛ける約束をしてしまった。
仲良くしよう――
家に帰るとき、兄貴は俺にそう言っていた。真剣にそう言った兄貴に対して、俺は肉親だし断る理由もなく受け入れたが、正直急に仲良くなんて出来るわけない。
「今日どこ行くんだよ」
「服を見に行く」
「そう…」
だからせめて、兄貴とケンカだけはしないようにと口調だけには気を付けていた。
・
・
「はぁ、涼しいなあ…」
「…そーだな」
喫茶店に着くなり兄貴は大量に購入した服を四席ある内の一席にドカリと置いた。俺も置こうと思ったがスペースがなく自分の背中に置くことにした。
すると白と黒に身を包んだウェトレスさんが注文を訊きに来た。
「ご注文は?」
「えーと、俺はアイスコーヒーで…、お前は?」
「あっ。グ、グレープフルーツを…お願いしますっ」
「かしこまりました」
可愛らしく微笑むと、ウェトレスさんは静かに姿を消した。
「…‥」
ちょっと奈緒に似てた。
そう思った瞬間、焦りを感じて落ち着きを取り戻そうと水を一口含むと兄貴の視線に気付いた。
「何?」
「‥はぁ、分かりやすいヤツ」
「えっ…!?」
「お前だよ。 今の店員が支倉に似てたからって、ソワソワしてんじゃねぇよ。このエロ太」
「なっ…、」
「発情期のエロ太が…」
はつじょうきのえろた…?
眉根を寄せて兄貴はそう言った。
しかも、はっ、発情期って…
「兄貴っ!」
「いちいち女に顔赤くすんな」
「してねぇし!それに、赤くしようが兄貴には関係な―」
「何もわかってねえな? 俺がムカつくんだよ。お前が他の女に動揺してると、嫉妬するだろ?」
「…っ、」
「あんまり兄貴にヤキモチを妬かせるなよ、翔ー太?」
「ぐっ…、」
「なんたって、俺が一番惚れてるんだからなぁ」
顎を掴まれ、ニヤリと不敵に笑うと俺の耳元でそう囁く兄貴。
こんの野郎がぁぁーっ!!
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