ブラザーに愛をこめて
10
「……」
俺は今、膝を抱えて体育座り状態で、図々しくも自動販売機の前を占領していた。
大学は良いなぁ…‥こうやって逃げる場所もあるし先生に見つかる心配も滅多にないし‥
俺も早く大学生になりたい…
「おい」
「─っ!」
「そこ邪魔なんだけど‥」
「…あ、すいませ…!」
そう言って男は、足で俺を退かして自分のお目当てがその自販機にあったらしくジュースのボタンを押した。酷い人だよ…‥
(……あ)
「あれ、倉橋クン??」
「そうだよ、あんたアホか?この顔が他にいるのかよ」
「…‥」
はぁ、アホ‥かぁー‥。
今の俺には鈍いの次にダメージを受ける一言だなぁ…。
「あんたによく会うなぁー? 園田って暇なのか?」
「…‥倉橋クン。真面目な顔して聞かないでくれる?」
「よく言うぜ、大学の自販機の前でサボってたくせに」
「……っ、く、倉橋クンだってサボってんじゃん!!」
しかも常習犯と見た。 初犯の奴がこんなに悠々とジュースなんて飲んでるわけないし!
「俺は別にいつもの事だし。だけどあんたって、授業とかサボんなさそーだし…っていうか意外とマメそうだよな?あんた」
やっぱりサボってんだ。
「……サボってるとか、開き直るなよ。なにも突っ込めなくなるじゃん」
「悪いなぁ?俺は割と口は達者な方だからな!言いくるめられる前に開き直っちゃうの」
「…っ、超ムカつくし」
「あんた、あんまりイライラしてると禿げるぜ?はい、これでも飲んでリラックスしろよ」
「…っ、」
眉を吊り上げてそう言った俺の頭上に、倉橋クンは飲みかけのジュースを置いた。
「飲みかけかよ」
「いらないなら別に捨てても良いぜ?ただの餞別だし」
「…‥そ、それはそれでもったいないから頂いとくよ」
「くっ、律儀な奴…」
そんな捨て台詞を吐いた倉橋クンは俺に背を向けた。
どうやら俺が、ここを占領しちゃったから移動するんだとさ。
親切にも、俺にそう毒を吐いてくれた倉橋クン。わざわざ余計な一言をどーも!
「──…あ、園田」
「え?まだなんか用?」
なんか思い出したのか、倉橋クンは踵を返すとまた俺の方へと戻ってきた。
「園田怜治ってさ…」
「…え?」
「あの人って、園田の兄貴だったんだな?」
「……あ、あー‥そうだけど。って言うか倉橋クン。ソレを知らない人の方が少ないぞ?」
「…まぁな。それに俺、今までは別に興味なかったし」
「…は?」
「独り言。…じゃあな!」
「――なんだぁ?」
倉橋悠介(クラハシ ユウスケ)──
あの人は…へんな奴です。
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