ブラザーに愛をこめて
17
「おいおい、さっき言ったことなのにもう忘れたのか」
「…な、何の話しだよ!」
冗談っぽい口調とは裏腹に冷たい目をした兄貴が怖くて、少しずつ後退りをした。
すると、腕を組んだ兄貴がおかしそうに笑い始めた。
「声、震えてるぜ?」
「…っ、」
「──なぁ?翔太お前さー、何か勘違いしてるみたいだから言うけど、これって全部お前が仕掛けた事なんだぜ?」
「……‥は?」
「だから、俺にカミングアウトをさせたのはお前だって事。お前が言えって言ったから俺は言ったんだぜ?」
「…っ、だってあれは、」
「言い訳するんだ?俺にあれだけ言わせたくせに?」
「そ、そんな…っ!」
涙が出そうになった。
兄貴は後々こうなる事を分かっていたんだ。そして俺の逃げ場を閉ざして兄貴が自分の気持ちを言えるように、仕向けるように、わざと俺を煽ったんだ。
全部俺のせいにして。
「…この野郎っ!」
「ぷっ、お前バカすぎ‥」
「っ、離せ、触るなっ!」
「…‥」
アホっぽく笑っていた兄貴の顔から笑顔がすっと消えた。
俺は急に怖くなって逃げるつもりだったのに、またしても腕を引っ張られ俺の耳元に囁いた。
「ずっと鈍くてお前は俺を手こずらせてくれたよな?俺、内心焦ったんだぜ?知ってたか?」
「っ、やめろ!」
「だけどそれでもお前が好きだから、手に入れたくて入れたくて仕方なかったんだぜ?」
「や、やめろってば!!」
「やっぱりこれも惚れた弱みかな?…なんせ、ずっとお前に恋してたんだからなぁ?」
「兄貴っ、もうやめてくれ!」
自分に対しての愛情を耳元で囁く兄貴が怖かった。
俺を性の対象としてずっと見てきたと笑いながら言う兄貴に、震えが止まらなかった。
「それは無理。お前は鈍いからな、俺がどれだけお前を好きか教えてあげないとな?」
「…っ、いらない!」
「耳を塞ぐな、俺は本気だ」
「……っ」
「翔太‥愛してる。ずーっと、お前の全部を独占したかった」
甘く、そして…囁くようにそう言った兄貴は俺を抱き寄せた。
そして「目の前の翔太がいなくなることが怖い」と言って、この手を離すことはなかった。
俺の頭がズキズキした。
兄貴は…頭がおかしくなったんじゃないかと‥。
だって、兄貴が血のつながった弟を好きになるなんて、おかしいじゃないか。
有り得ないよ…――
・
・
「あれ…?園田、今日は翔太クン来ないのか?」
「…‥」
「…おーい園田クーン??!‥ねぇ龍クン?龍クンは翔太クンと一緒じゃなかったの?」
「っ、知りません!あんな奴」
「あららぁ…」
俺は、今朝兄貴があんな事をカミングアウトしたせいで、お昼休みにみんなと顔を合わせることが出来なかった。
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